黒い翼の少年
ACT.22
子どもだ・・・子どもがいる・・・
灰色の髪に、灰色の瞳なんて気味が悪いな・・・
おい、タクロウ、おめぇんとこ、子どもまだだったよな?
どうだい、この灰色の子どもは・・・
***
山は人が行き来するのか、歩ける道が出来ていた。
ジャムは自分の里に戻ってきたような気がして、心地よく自然の空気を吸っていた。
アギィは山道も苦手のようで、半分も登っていないのに息が上がっていた。
カイロだけが、黙々と表情を変えずに登っている。
自分の記憶じゃない記憶ばかりがこの山を登っていると浮かんでくる。
今は一本道なこの歩道。
しかし、もう少しすると大きな岩があって、その岩の向こうには鳥居を立ててまで神を奉った祠がある・・・
「カイロ!」
声を掛けられてカイロはハッとした。目の前には大きな岩が先には行かせまいと行く手を阻んでいた。
後ろを振り向くと、ジャムとアギィが怪訝そうな顔でカイロを見ていた。
「おまえ、あの岩に突っ込むところだったぞ。」
カイロは大きく歩道を外れていた。
過去の自分のものではない記憶が混じって、脳内で混乱を起こしている。
気を取り直して再び歩道を歩く。
この歩道を上に登っていくと、鬼の形をした石像があって、その鬼の向いてる方を歩くと石を組み立てた洞窟が・・・
「カイロ!」
再びジャムに呼ばれてハッとする。
振り向き様に石の柱にぶつかってよろける。
わき腹を思いっきりぶつけてその場に蹲る。
「大丈夫か?お前おかしいぞ?」
「・・・う・・・うん・・・」
カイロはわき腹を押さえて立ち上がった。
「あれ?」
ジャムがカイロの脇の石柱を指差して呟いた。
「それ、顔があるんだね。」
「あん?昔からあるんだろ?なんかの儀式で使ったとかさ。」
「この石柱さ、この島の至る所にない?」
「だから、儀式かなんかだろ?」
「あ、あっちにもある!」
ジャムはアギィの話を無視して先に進んだ。
「これにも顔があるよ!」
ジャムがカイロたちの下に戻ってきた。
「みんな同じ方向を向いてた。」
ジャムはこの周辺にある石柱を身軽な体で見て回ってきたようだった。
「みんなあの先の崖の方向いてた。」
ジャムが指を差したところ。
そこは、カイロの5歳からの記憶が始まったところであった。
草木のトンネルの出口は、残酷にも真下が断崖絶壁であった。
「何にもないな・・・」
草木の出口から、森の中を見回す。
石柱以外に変わったものが見られない。
漠然と周囲を見回すアギィと、意気消沈しているカイロを尻目に、ジャムだけがウキウキしながらひょこひょこ飛び回っている。
「最後のドラム缶の入り口ってなんなんだよ・・・」
アギィが立っている先の土を蹴った。
土は崖を転がり落ちていく。
ジャムが駆け寄ってきた。
「ドラム缶ってあれでしょ?」
と草木の出口から外を指差した。
カイロとアギィはジャムの差す指の先を見た。
山の上の崖。
目の前に広がる海。そして【エスター・コート】の群島諸国。
一つの島が目に付く。
この凄い煙を吐き出している煙突がいくつも聳え立つ島。
その島の港。
大きなドラム缶が口をこちらに向けて、三角形に聳え立っている。
「ドラム・・・缶の・・・入り口・・・」
「あの島か?あの島に行けばいいんだな?」
アギィは顔色を変えて来た道を引き返そうとした。
「違うと思う・・・」
カイロが口を開く。
アギィの足が止まる。ジャムもカイロの方を振り返る。
「アレはドラム缶が積み重なっているだけだし、詰めるもの詰めたら輸出されてしまう。常時そこに在るわけじゃない・・・」
「あれには何を詰めるの?」
ジャムはカイロに尋ねる。
「あの島は【油基島(ゆきしま)】油が掘り出せる島なんだ。だから油じゃないかな。」
カイロが穏やかな口調で答える。
「僕のいた里にも来てたのかなぁ・・・」
「油は自然と反するものだから、ジャム君の里までは届いてなかったと思うよ。せいぜいあそこの油田のものは【ミドル・キャッスル】とか人間さんの主要都市にしか行き届かないんじゃないかな。・・・・!!」
カイロの顔色が突然変わった。
「ドラム缶の入り口・・・あそこから見える積みあがったドラム缶は確かに此れから油を詰めて輸出される。行き先は・・・」
カイロが目を凝らしてドラム缶の表面に書かれてあるであろう輸出先を読もうとしている。
「え・す・た・あ・こ・お・と」
カイロの横で、ジャムが目を凝らして読んでいる。
「あ・き・し・ま」
「燿島!?」
カイロが叫んだ。
「そうか!わかった!ヨウイチの手紙・・・レンジの調査結果の在り処が…燿島へ行きましょう!」
**
【燿島】
かつて魚人族が棲んでいたとされる世界極東の孤島。
魚人族の研究者たちが数多く研究所を持っている。
「ヨウイチさんの魚人族の研究なんて本職なんだから軍は此処まで来て調べあげてるだろう・・・」
アギィが無駄骨だと喚き散らす。
「ジャーナリストが此処まで苦労させて常識的なものを答えとして残すわけがないだろう?」
3人は燿島の港を揃って歩いている。
先ほど【油基島】で見たドラム缶が並んでいる。
ドラム缶ロードと言っても過言ではないこの道を真っ直ぐ行くと、観光協会の建物らしきトタン屋根が見えてきた。
「すみません・・・」
トタン屋根の建物のドアを3回ノックで開ける。
がらんとした薄暗い屋内に、カウンターが構えてある。
その上には『魚人の島・燿島』と書かれたパンフレットが山積みにされている。
カイロはそのパンフレットを一枚取り、ぱらぱらと捲っていく。
アギィは観光協会の建物内をぐるりと鑑賞している。
壁には『魚人族とは』『魚人族繁栄』『魚人族滅亡』など、魚人族の詳細が事細かに記されている。
写真も掲載されている。
『魚人』の等身大写真、『発掘現場』模様の写真、『記念博物館』開館記念の写真も掲載されている。
「おい、ヨウイチさんはこの中にいるのか?」
アギィがカイロの肩を叩き、写真を指差す。
カイロが顔を上げて、写真に目を凝らす。
「ヨウイチ=カシマの知り合い?」
女性の張りのある声が屋内に響いた。
3人はびっくりして身じろぎした。
カウンター向こうから、体を起こしてきたのはアザミと同じ年くらいに見える10代後半くらいの女性であった。
女性は3人を眠気眼で見定める。
「やっと、ヨウイチの遺言通りの人が来たか・・・」
女性はそう呟くと、体を起こしなおして、改めて口を開いた。
「ようこそ、魚人族の島、燿島へ。ヨウイチ=カシマは既に他界しましたが、優秀な『魚人族研究者』でしたが、ヨウイチが何か?」
「あの、ヨウイチさんの研究所って此処にありますか?」
「はい、ですが残念なことにヨウイチ=カシマが他界して間もなく、放火にあい、全焼しました。」
カイロとアギィの顔に絶望の色が滲む。
すると女性は口の端を上げ、「ですが・・・」と続けた。
「あなた方はヨウイチ=カシマから手紙を貰って此処に来たのではないですか?」
「・・・あ、はい!」
「ヨウイチ=カシマより、遺言を預かっております。『灰色の髪に同色の双眸を持つ青年がきたら、これを渡してください。』と。」
女性はカウンター裏の引き出しから薄黄色い封筒をカイロの前に差し出した。
「ヨウイチを訪ねてくるのはみんな軍人ばかり。それに、その髪も瞳も同じ色の人なんてそうそういないからわかりやすい遺言だったわ。」
カイロは女性から手紙を受け取る。
「それ、受け取ったら早々に破棄することを勧めるわ。軍人がまだこの島を狙ってるみたいだから・・・あ、因みにヨウイチの写真は此処にはないわ。全て軍人が破棄してったの。」
何をしでかしたのかしらね・・・と女性は頬杖を着いてため息混じりに呟いた。それからジャムの方を向いた。
「あら?あなた、この前も此処に来たわよね?有名な司令官と一緒に・・・ってことはあなた達軍人?」
女性の顔色が変わった。しまったとも取れる表情であった。
ジャムは首を横に振った。
「彼も僕らも軍人ではありません。ここに来るのは初めてです。」
カイロが割って入る。
「そう?」と女性は怪訝そうな目で3人を見比べる。
カイロが「では、お暇します・・・」というと、女性は頬杖を戻してカウンターの裏へ消えた。
どうやら裏で横になって寝ていたらしい。
大あくびをする声が屋内に響いた。
3人は、観光協会を出た。
「手紙伝えってまどろっこしいな・・・」
アギィは既にこの探偵ごっこに飽き始めていた。
「それがヨウイチの流儀だから仕方がない。この上なく面倒くさいけど、この上なく確実だ。でもこれは信頼できる相手がいなければ成り立たない方法だけど・・・」
カイロは手紙をゆっくり剥がしながら苦笑いを浮かべた。
『カイロ=サイカ様
調査結果は鬼の住処にあります。
ヨウイチ=カシマ』
「みんな、ふりだしだ。」
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