黒い翼の少年
ACT.23
【鬼族】
神が生まれたはるか昔より北に生まれ、極東の小島で滅びた種族。
頭には二本の角がある。
***
【浦島】
エスターコート最極東の小島。
カイロたちは再びその島に戻ってきた。
「これが最後の遺言だ・・・」
カイロの握り締めた手紙は汚い紙切れに殴り書きだった。
時間が迫っていた証拠だったんだろう。
「鬼の住処・・・鬼が住んでいた島。此処だ・・・この島で鬼族が生存していた時代からあるものはあの山・・・」
「違うと思う。」
ジャムが呟いた。
急くカイロとアギィはジャムの声に足を止めなかった。
2人にはもう目の前の山しか見えていなかった。
2人の後をくっつきながらジャムは更に呟いた。
「鬼の住処って、鬼の住んでいる処なんだから、鬼族が住んでいる家にあるんじゃないかな・・・」
「うっせーなぶつぶつと!鬼族なんか滅亡していてこの世にはいないんだよ!」
「そんな証拠何処にもないじゃない!」
カイロが突然足を止めた。急停止したアギィの背中にジャムがぶつかる。
「いたいなぁ!」
「おい、カイロ、どうし・・・」
カイロの前。
黒いマントが翻っている。
「この山にヨウイチ=カシマとレンジ=シーモストの調査結果はなかったよ。」
その声は、西島でアギィの目の前に現れた少年の声。そして、今まで話していた少年の声。
黒マントの少年はマントをはいだ。
Sonneと呼ばれる少年。
その素顔は、3人を驚愕させた。
「・・・僕・・・」
ジャムが小声で呟いた。
少年の素顔。それはジャムそのものであった。
唯一違うといえば、右目、右翼が潰れたジャムに対し、少年は全く逆の左目、左翼が潰れていた。
「多分、考え的にはジャムの考えが正しいかな。鬼族は生きていて、まだ、浦島に住んでいる。」
「おい、Sonne!お前、なんでジャムの名前・・・」
アギィがまくし立てる。
「だって、僕たち双子だもん。同じで当たり前だろ?たまたま先に生まれた僕が縁起悪いって言って当時の御巫とやらに殺されかけて流された。そして生き残った弟が意味のわからない力に振り回されて、御巫の座に据え置かれた。それだけのことだよ。」
Sonneはさらりとジャムの知らないことを喋る。
「そんなことよりも、君たちは今、世界最悪犯の機密情報を手に入れようとしているんでしょ?」
「なんだと!」
カイロを押しのけて、アギィがSonneに掴みかかろうと勢い込んだ。
しかし、手をかざしたSonneに、アギィは頭を抱えて蹲った。
「・・・アギィ!」
その姿は、初対面のときにジャムが使った巫力にやられたアギィの姿そのままであった。
Sonneの顔は笑っている。笑っているが、目が笑っていない。
「魔族が巫力に弱いことを知っている・・・」
危険を察したカイロはSonneの正面に立ち、アギィを庇い、ジャムを隠した。
「神族・カイロ=サイカに、朱の魔族・アグリヴォルト、君たちは重要参考人としてミドル・キャスト軍に連行します。」
Sonneは懐から軍の証明パスを3人の前に突き出し、そう言った。
すると、Sonneの後ろから軍人が姿を見せた。
「囲まれた!」
カイロは苦虫を噛み潰したような顔をして方々を見回した。
アギィはまだ巫力の効力から回復していない。
軍人が銃口を3人に向けてじりじりと近づいてきた。
ジャムは奥歯を噛み締めた。
ジャムにとって短い間でも仲間と思って一緒に行動してきた大切な人たち。
今度こそ守りたい!
その気持ちがジャムを動かした。
カイロを押しのけて、ジャムはSonneと対峙した。
「カイロ、アギィを連れて逃げて!」
そう言うと、ジャムは両手を前に突き出し、力を溜め込み始めた。
「うわぁぁぁぁ!」
そう叫ぶと、周囲を囲んでいた軍人が次々頭を抱えて倒れこんだ。
「ジャム君!やめるんだ!君の力は・・・」
御巫としてのジャムの力は計り知れない。
初めてジャムの力を目にしたとき、カイロはそう感じていた。
ましてや、仲間を失うことは、過去を清算できていないジャムにとって精神から崩壊してしまうほど最悪な出来事なのだ。
しかし、カイロもジャムの力を失うことはレンジの調査結果を失うよりも痛い出来事でもある。
「・・・どうすれば・・・」
戸惑うカイロの背中をポンと何かが触れた。
振り向くと、巫力で意識を失いかけているアギィが渾身の力を込めて立ち上がり、首をゆっくり振った。
『ジャムの意志を尊重させよう。』
心にアギィの強い信念が流れ込んできた。
『必ずジャムを助けよう』
カイロは強く頷くとアギィを抱え、ジャムを一瞥してその場を立ち去った。
ジャムはカイロを見送り、口の端を上げた。
「僕は今度こそ、大事な仲間を守るよ。」
「ジャム、いずれすぐに処刑されるような奴らを守って何の徳があるの?」
Sonneは指をバチンと弾くと、ジャムから発せられた力が一気に収束した。
「!!」
ジャムはSonneの力に驚愕した。
「奴等が長い年月掛けて知りたかったことなんか、僕の口から5分もしないで語れるくらいのくだらないことだよ。ジャム、これでも、君は奴等の仲間に戻れるのかな?」
にやりと笑うSonneはもう一度パチンと指をならした。
Sonneの後ろから人影が現れる。
カイロよりも濃い灰色・・・鼠色の翼を持った青年が立っている。
「・・・!ヒラー!」
**
山を降り、カイロたちは物陰に隠れた。
「カイロ・・・すまねぇ・・・」
アギィがボロボロの体を抱えて泣き崩れた。
「・・・仕方がないよ・・・ジャム君が無事であることを祈って、ほとぼりが冷めたら助けに行こう。」
カイロがアギィのでかい体を抱えて呟いた。
「今は、レンジの調査結果を探すことに専念しよう。」
アギィはしばらく声を押し殺して泣き続けた。
アギィの気持ちが落ち着いてから、2人は物陰から這い出た。
「鬼の住処は鬼が住んでいる処って言ってたよね?」
「ああ。確かジャムもそう呟いてた。」
「鬼の生き残りなんかいるのかなぁ・・・」
「鬼・・・鬼ねぇ・・・また家の天井の模様とかだったりして。」
アギィは鼻で笑いながら呟いた。
すると、カイロはアギィの両肩を掴んで、
「アギィは天才だろ!」
と叫んだ。
「は?」
「木造建築は鬼族の発祥だってじいさん言ってたよね!」
カイロは【灯ノ島】で世話になった老医師の言葉を思い出した。
「僕の実家に戻ろう。」
「またかよ・・・」
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