黒い翼の少年

ACT.7

ニンゲンが、『何』をするかなんて、分かりきっていることだ。

『お尋ね者』の烙印が刻まれた奴を匿えば、同族だろうがなんだろうがそれ相応の罰を受ける。

たったそれだけの関わりでも、『お尋ね者』は生き永らえ、庇った奴は消えて行く。

この理不尽な道理はなんだろう…

そこまでしてまで、この命に、価値があるのだろうか…

 

**

3人は黙々と山道を歩いていた。

ジャムは歩きながら、犠牲になったルイのことばかり考えていた。

「ジャム君」

沈黙を破る口火を切ったのは、灰色の髪をした男だった。

「酒場の少年のこと。自分が死ねば…と思っていましたね。」

ジャムは山道を登る足を止めた。

「世間では、双翼族は敵です。人間に仇をなし、世界を滅ぼす悪です。」

ジャムは淡々と喋るカイロの言葉に唇を噛み締めた。

「でも、それは誰が決めたんですか?」

カイロとアギィも足を止め、振り返る。

「僕は、“人間”ですが、魔族のアギィも双翼族のジャムも敵だとは思いません。」

ジャムはゆっくり顔を上げて前に立つ大きな2人を見た。

一人は灰白色の髪と灰色の瞳をしており、目元は狐のように細い。すらっとした体格は長い旅をしてきたことを思わせない軟弱でひ弱なように感じる。

もう一人は赤黒い髪と紫の瞳をしており、筋肉のみなぎるがっちりとした体つきで、肌の色も太陽の光を存分に浴びた茶色い色をしている。

全く正反対の二人。

種族も違う。

自分も違う。

カイロは続ける。

「僕はジャムもアギィも知っている。生い立ちや今まで担っていたものとかじゃなくて、ただ、そこに居るっていう、存在してるって事を知っている。それはきっとルイも同じだったと思う。」

“ルイ”

双翼族のジャムを匿って、逃がし、罪を問われた少年。

レッド・ポートの酒場で働き、海に身を投げようとしたジャムを救ってくれた。

「ルイはジャムを普通の人と思って接した。でも、双翼族とわかっても、ジャムはジャム。生かしてやりたいと思って助けた。」

「結果として、僕がころ…」

ジャムの言葉を遮るようにカイロは話を続ける。

「ルイがジャムという“ヒト”を知ったから。ルイは、ただ、ジャムが追われて苦しんでいるのを感じたから助けたんじゃないかな?」

「…ルイだって、双翼族がお尋ね者って知ってただろ?…どういう仕打ちがあるのかも…」

アギィが口を開く。

「ルイは自分の命を張ってでも、ジャムを助けたいって思ったんだね。ジャムはその命を無駄って思う?」

カイロがアギィの言葉をつなげる。

「僕は…僕は、自分の存在があったために人が死ぬのはもう嫌なんだ。」

まだ少し、幼さの残るテノールの声が山林に響く。

カイロとアギィにとっては初めて聴くに等しい、叫びにも似た声だった。

「僕は、双翼族の守り神と言われるルチア・ローウェイの子孫です。」

 

『ルチア・ローウェイ』

人間の世界でこの名前を知らぬ者は居ない。

全世界の人間が、歴史の本で、あるいは歴史の勉強で、その名前を知り、恐れを抱く。

約数千年前の昔のこと。

人間と人間でない種族が争いを起こした。

それが今にも根深い痕跡を残す『異種族殲滅大戦』の前哨戦『200年戦争』

200年』間争ったわけではなく、神歴200年に起こったから『200年戦争』と名付けられた。

“万物は、北で始まり、南で栄え、西で安住し、東で衰える。そして、再び、神の地に戻りて、終焉す”

この太古よりの神言を断ち切った“神の創った最後の愚物”人間は生まれて間もなく神を殺し、長い年月を掛けて人間にとっての異物・人間でない種族の根絶を図ろうとした。

文明の進化が著しい人間の世界は瞬く間に広がり、根絶まではできずとも、人間に害のない種族は残され、共存・・・というよりも服従を余儀なくされていた。

全てが人間の都合のいいように出来上がっていく世界。

かつてうまくまわっていた世界のサイクルが狂い始めていた。

最も打撃を受けたのが自然と共存する種族だった。

その一つに双翼族も居た。

この時代、大御巫として双翼族のトップに立っていたのが『ルチア=ローウェイ』その人であった。

ルチアは幼き頃より強大な巫力を持ち合わせており、若干17歳で類稀なる才能を開花させて大御巫の地位に就いた。

ルチアは時代の軋みをどの双翼族よりも早く察知していた。

この時代には未だ栄えていた多種族との交易を通じて情報を得、人間に理解を求めるため、自ら率先して人間の元に足を運んだりした。

しかし、人間はあっさりルチアを捕らえ、双翼族に服従を求めてきた。

トップが捕縛されては手足も出せない状況に双翼族の面々は服従を決めようとした。

しかし、それに異義を唱えたのがルチア本人と、当時はまだ存在していた鴉の一族であった。

この時代の双翼族には羽根の色で一族が分かれており、守護鳥という鳥一族の守り神として各々に一羽一羽存在していた。

ルチアは茶色い翼に金の瞳であったことから梟が守護鳥として常に側に居た。

それと同様、鴉の一族は漆黒の翼に漆黒の瞳を持ち、鴉を守護鳥とした一族である。主に御巫の隠密として、各地域を飛び歩いていた。

ちなみに現代に置き換えるならば、漆黒の翼・双眸のジャムも鴉と言えるのだが、守護鳥は、この時代を境に絶えてしまっている。

ルチアの守護鳥が捕らえられたルチアの意思を仲間に伝えたり、隠密・鴉一族が集落へ戻り口利きをしたりした行動から双翼族は人間からの服従を断った。

もちろん、人間は容赦なく双翼族を狩ることを決めた。

そんな中、ルチアは御巫の力、強大なる巫力を発動させることで人間の呪縛を逃れ、双翼族を人間の手から守った。

人間にしてみれば、ルチアの巫力は強大でかつ未知の力。

そんな双翼族に恐怖心を抱いた人間は、双翼族という双翼族を根絶やしにしようとした。

ルチアは双翼族の仲間達を巫力の強い森の深くに移動させ、一族を守っていこうとした。

その途中、人間の不意な攻撃に双翼族の里は焼き討ちに遭ってしまう。

ルチアは史実上、その焼き討ちにて右翼、右目を失い、巫力を完全に失ってしまう。そして、人間に捕らえられ、磔となり、生涯を閉じた。

人間は生涯の既に閉じたルチアの遺体を腐るまで曝し続けたという。

 

史実として全世界に伝わるルチア=ローウェイには一族もろとも滅ぼされたことから子孫などおらず、双翼族も巫力自体弱まり、人間に害をもたらす力は持っていないと判定を受けている。

そもそも、ルチアが移動させた双翼族も人間のデータ内では壊滅していたことになっている。

なぜ、今になり、双翼族の生き残り達が始末されることになったのか。

もとより、なぜ、今になり、双翼族の存在が明らかになったのか。

 

そして、居ないはずのルチアの子孫がなぜ、存在していたのか。

 

カイロはジャムの話を聞きながら、その答えが彼のなかで徐々に見え隠れしてきたかのように含み笑いを浮かべていた。


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