黒い翼の少年
ACT.29
「この悪魔風情が!!!!」
バレッド=オスカーの周囲に黒い靄が掛かる。
バレッドの血管という血管が浮き上がる。
『うわぁぁぁぁ』
声音も先ほどの高飛車なテナーバスが濁ったノイズの混じった声に変わる。
「・・・『朱の魔族』・・・こいつらが居なければ・・・」
血管が皮膚を裂こうとせんと盛り上がる。
毅然としていた詰襟が盛り上がった身体でボコボコと変形し始めている。
「魔族は神を越えんとした・・・魔族は消さねばならない・・・」
黒い靄から電流がバチっと流れ始めた。
「おい、それだけか?・・・それだけの・・・理由で・・・」
アギィがその姿をみながら唖然として口を開いた。
「魔族がいなければ、俺が神だ・・・俺をこんなにした父も居ない。母もいない。全知全能なのは自分だ・・・」
「・・・くだらない・・・」
カイロが吐き捨てた。
「・・・カイロ=サイカ・・・俺はお前を神と認めない!俺の父親だと認めない!」
『うわぁぁあぁぁ!』
黒もやから発せられた電流がカイロに向けて放たれた。
『ピシャァァァン』
「カイロ!!」
カイロに電気が降りかかるが、カイロはバレッドを睨んでその表情を変えない。
「・・・旅の・・・ジャーナリストに会ったことがある・・・」
カイロとアギィがピクンと動く。
「・・・ジャーナリストは・・・神族について調べていた・・・浦島に鬼族がいて、神族を青年を保護したと・・・記憶のない神族の青年は島の女に惚れて結婚したんだそうだ・・・」
カイロの記憶・・・いや、カイロになる前の魂の記憶・・・
ヒラーが話の間に入る。
「すぐに・・・私が調べに行きました。・・・父・・・でした。」
「・・・俺は、怒りで身体が張り裂けるかとおもった・・・そう、今のような・・・」
浦島の鬼族を軍の力で殲滅させた。
謎の青年は、罰を受けて大気となった。
「・・・その何百年・・・何十年か後に魚人族の研究をしているジャーナリストに出会った。・・・灰色の・・・髪と瞳をした子どもの依頼で、神族について調べていると言った。・・・ジャーナリストは不思議な繋がりでいつの間にか俺の正体まで掴もうとしていた・・・」
ジャーナリストを殺した。
奴の掴んだ情報を死に物狂いでもみ消そうとした。
「・・・貴様・・・」
アギィは奥歯を噛み締めた。
「復讐が・・・終わるまで俺の正体はばれてはいけないんだ!」
『うわぁぁぁぁ!』
電流が周囲に降り注ぐ。
アギィやジャムはそれをよける。
カイロやヒラーはまともに受けているけど、ダメージを受けている感じがしない。
「・・・俺は・・・神の子なんだ・・・俺は・・・」
「・・・僕は・・・神なんていないと思うよ・・・」
キルトを抱えたまま、ジャムは呟いた。
「貴様に何がわかる!」
「貴様に何がわかるってそのまま返すよ!」
ジャムはバレッド=オスカーを睨んだ。
「何百年経ったって、争いはなくならないし、それよりも悲しみや憎しみを抱えるヒトが増えている・・・自分だって半永久の命を持っていたって、辛いんじゃないの?」
「・・・ジャム様・・・」
ヒラーが呟いた。
「命に限りのある僕とか、アギィとか、キルトとか、その他大勢のヒトだって、誰かを失えば辛いし、失った原因が誰かの手の中にあるんだったらそいつは憎いし、悲しい・・・それを僕たちは長くて80年抱えればいいけど、君とかヒラーとか半永久抱えてるんでしょ?どこかで浄化したいって思わなかったの?」
「・・・そ・・・そんなに・・・簡単じゃないんだよ・・・」
ジャムの腕の中でキルトが呟く。
「・・・僕・・・は・・・例え死んだって・・・お前は・・・憎いし、双翼・・・族・・・のやつら・・・だって殺したいくらい憎い・・・その憎しみでこの世に残って、呪ってしまいたいくらいだ・・・」
「キルト・・・」
キルトは力を振り絞って、ジャムから離れた。
「バレッドは・・・僕が・・・死んだって・・・僕の代わりに世界を滅ぼしてくれる・・・お前が・・・居なければ・・・居なければ・・・」
『ザシュ』
「キルト!!」
立ち上がったキルトに刃が再度突き刺さった。
雷の刃だ。
キルトはその場に倒れ、絶命した。
「バレッド!お前!」
アギィがさけんだ。
「記憶だけ持っていたって、キルト=バーレンはお母さんじゃないもん。」
血管の浮き上がった悪魔は、いきなり子ども染みた声音でそう言った。
「お母さんは死んだんだよ。世界が一つになってくれないから、そんな世界を憎んで憎んで死んだんだよ。」
口の端が鋭利に上がる。
「キルトがさ、僕とヒラーの名前を呼んでくれたときは、生き返ったんじゃないかって嬉しかった。でも、彼には巫力もなかったし、顔だって全く違う。巫力を与えて泳がせて見たけど、世界を滅ぼしてくれなかった。」
「役立たず・・・てわけ?」
皮肉めいてアギィが言う。
「結局、僕が死ねばハイトは満足なわけ?」
今まで睨んで微動だにしなかったカイロが口を開いた。
「僕は、神でもなんでもないただの人間だよ。この髪と瞳を宿して大気から人間になれたのは、此処まで悪事の種を撒いた僕へ罪滅ぼしをしろってことなんじゃないかな。」
カイロは一回目を閉じ、もう一度開けた。
そのときのカイロはカイロではなく、リト=オスカーという名前の神とよばれた男だった。
**
神とは天上におわしまして、我等は神の代行として天上の神の意思を下界にお伝えする役目を担うのです。
神族という種族に生まれたリト=カイロスト=オスカー。
幼い頃から、背中に黒翼を宿し、何処となく不思議な雰囲気を宿した彼は、17の誕生日に神の代身・神代(かみしろ)に選ばれた。
様々な場面で彼の身体の中に神が乗り移ることがあった。
神聖な彼の身体は、神族の部落から出ることを禁じられた。
何もかもが神中心の世界。
ふと、世界がどうなっているのか気になって、神に尋ねた。
『僕の住むこの世界には、何者がすんでいるのですか?あなた様が作り出した多くの仲間達は何処で何をして暮らしているのですか?』
神は、彼にそんなことは知る必要などない。と言った。
彼は、非常に不満を抱いた。
そんな彼を見て、神は言った。
『万物は、北で生まれ、南で栄えて、西で安住し、東で衰える。私の造った世界はそんなものなんだよ。』
外の世界に益々興味を得たリト=カイロスト=オスカー。
北の大地・ノースアイランドを飛び出した。
19歳だった。
世界は予想以上に広かった。
リトはリト=ガーゴイルと名を変え、東の衰えし大地に踏み入れた。
そこで見たのは、背に両翼を蓄えた活気ある種族の里だった。
「こんにちは。今日は年に一度の豊玉祭よ!みんな今年採れた作物を奉って来年の豊作をお祈りするのよ!」
舞台では白と茶色の翼を蓄えた巫女たちが舞っていた。
同じように白い装束を身に纏った白い翼の女性はリトに祭りの紹介をしている。
「双翼族・・・?黒い翼は始めてだわ。」
「・・・いえ・・・僕は・・・」
リトが何か喋ろうとしたとき、警報が鳴り響いた。
祭りは中断。周囲の人は血相を変えてそれぞれの家にはいっていった。
リトに祭りの説明をしてくれた女性を除いて。
女性はリトを押しのけて、警報の掛かった里の入り口に仁王立ちをした。
しばらくして、たくさんの兵隊が里の入り口を塞いでいた。
先頭に偉そうにふんぞり返って立っている将軍がいる。
「ルチア=ローウェイ。この里をさっさと開放しないか?」
「あら、ニンゲン将軍さん。この里は双翼族のもの。開拓の話はお断りしたはずでしてよ?」
「まだ神とやらの詔を信じているのか?もう神だの詔だの古い。今は世界は自分達で開拓していく時代なのだ。」
「あなたは神の詔に従わなくて消された種族が居たこと知らないの?そんなことするとニンゲンさんはこの世から姿を消すのは時間の問題ね。」
「私だってバカではない。研究の結果、神は居ないと判断されたのだよ。」
「この前のコビトの種族を殲滅したこと言っているのね?」
女性は奥歯を噛み締めた。
「だが、我等はコレこの通り生きている。神なんて所詮誰かが自分達を守るために出来た空想上の人物なんだよ。」
「そんなことない!」
リトの口が思わず動いた。
一斉にリトのほうを向く。
「あなた・・・」
ルチアが少し微笑んでいる。
「なんだ、貴様は・・・」
「え・・・あ・・・僕は・・・」
「黒い翼・・・仲間か?」
「僕は隠密でこの里を守っています。」
口からでまかせでボロボロと嘘が出てくる。
「このルチア様を守っていくことが我々種族の義・・・義務でございます!」
しかも、大事なところで噛んだ。
「ふん。そんなことやっているのも今のうちだ。」
軍隊はぞろぞろと里から撤収した。
「ありがとう!そんな人たちが居たのね。私知らなかったわ。」
「あ・・・いや・・・」
ルチアは嬉々としている。
「名前、名前を教えて。」
「僕は・・・リト=・・・ガーゴイル・・・です。」
「よろしく、リト!」
リトは口からでまかせと言えど、双翼族の里から離れられなくなってしまった。
当然、ルチアの隠密なんてリトの作り話で、誰もその存在を知らなかったからみんな冷たい目線をリトに送る。
何気なく言ってしまったことだったが、ルチア=ローウェイは里の大御巫という立場で、実質双翼族を導いている大きい存在だった。
そのため、ニンゲンという種族に命も狙われているという。
彼女を守るという存在は本当に必要なものだった。
ルチアは16歳。
若干16歳の娘が担っているものは大きく、果てしないものだった。
「リト、其処に居るんでしょ?」
「・・・はい。」
隠密という立場上、屋根裏などに潜んでいることの方が多かった。
誰もいなくなると、ルチアはリトに声を掛けた。
「神様は、世界をどう考えて作っていらっしゃるのでしょう・・・」
ルチアの話すことは世界や神を憂う内容が多かった。
神族でありながら彼は、彼女の疑問に応えることができなかった。
神代とはそんなものなのだろう。
神に身体を貸している時は神のものであり、リトという人格はどこかに深く沈められてしまうから。
ルチアに触れて、彼は自分の知りたかった世界の在り方を知った。
それは、神族の者たちが想像もできないような残酷で、理不尽な世界だった。
ニンゲンがルチアを手に掛けたのは、リトが神族の地を去って4年ほどたった時だった。
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