黒い翼の少年
ACT.28
「おい、神様よぉ、神様ってのは全知全能なんだろ?この展開はなんだよ!」
アギィは縛られた両手を必死にバタつかせている。縛っているロープは千切れそうにない。
「僕は、神であったけど、罪人だから力などないのだ。」
カイロは落ち着いて、大人しく座っている。
時をさかのぼれば、浦島のカイロの実家を出たとき、奴等は既に待ち受けてそこに居た。
あっさりお縄になった2人は、何故か大犯罪者として、そのままミドル・キャストという、人間世界中心の大陸へ送られることとなった。
しかも、その先は処刑台だそうだ。
「確かに〜カイロ=サイカは大犯罪者ですが?顔からして。この狐目。胡散臭い感じで嫌な感じ〜」
「アギィの罵りは低レベルだね。」
「なんだと?こらぁ!」
「五月蝿い!静かにしたまえ!」
見張りの軍人が痺れを切らして2人の間に入る。
「・・・チィ」
アギィの悪態はとことん酷い。
平気で軍人にツバを吐き飛ばした。
其の時、急に周囲がばたばたし始めた。
「見つかったか?」
「嫌・・・」
「飛行船から窓割って逃げたらしい・・・」
「海のもずくなんじゃないか?」
「なんだ?騒がしい。」
アギィほどではない。
「軍人さん、何かあったんですか?」
「囚人には関係ないよ!」
カイロの質問は揉み消された。
「んだよ!いいじゃねーか。俺たち死ぬんだし〜!」
アギィはわざとでかい声で言ってみるが効果はないようだ。
「ジャム君、あの時飛行船に乗ってったよね?」
「・・・ああ・・・確か・・・」
「・・・逃げましょう。」
「は?」
「今がチャンスです。」
カイロは目を更に細くしてニヤリと微笑んだ。
「逃げた!囚人が逃げたぞ!あ、おい、お前、2人の囚人を見たか?」
集まった軍人が血相を変えて老掃除夫に声を掛けた。
「先ほど、海に身を投げたものが居ましたぞ?」
老掃除夫は少し考えてそう呟いた。
「なにぃ?おい、外だ!甲板へ出ろ!」
その一言で全軍は甲板へ向かった。
全軍が皆、老掃除夫の前を過ぎていった。すると皮のゴミ袋がごそごそ動き出し、口から赤紫の髪の青年が顔を出した。
掃除夫も、仮面を剥いだ。
「バカか?あいつら。」
アギィが呟いた。
「行きましょう。飛行船を脱走したのは多分ジャム君です。」
「なんで判るんだよ。」
「僕の記憶が正しければ、あの飛行船でSonneの裏から出てきた人がジャム君の知り合いだった・・・きっとジャム君を守ろうとして手を貸してくれるんじゃないかな・・・と。」
アギィは結局首をかしげた。
船の前方はがら空きだった。
カイロは救命用のボートのロープを切り、アギィを乗せたあと、自分も飛び乗った。
潮の流れ的にも、ミドル・キャストから離れる海流であるため、帆もないボートは船と徐々にかけ離れていく。
船後方に群がっていた軍人は、カイロたちがボートで離れていく様をやんややんやいいながら眺めていた。
「ところでさ、ジャムの奴は何処に逃げたんだ?」
「逃げるとしたら夜ですね。夜はこの辺は風向きが南に変わる傾向があるみたいですから、サウザリアン方面へ戻っているかもしれません。」
そんな適当なことでジャムに会えるのか、アギィは少し不安になってきた。
カイロたちは、何日かぼさーとしているうちにサウザリアン近郊の小島に漂着していた。
無人島らしいが、波乗りやバカンスに来ている人たちが周囲を賑わせていた。
「いやぁ、最近よくヒトが漂着するんですよ」
バカンスを計画する観光ガイドが豪快に笑ってそういった。
「この前も、黒い翼の少年がハングライダーに乗ってこの浜に下りてきたんですよ。」
「その少年は?」
「そこの観光協会で保護していますよ。なんせ、軍人さんの身内だそうですから。すぐ連絡が来ましてね。保護しておいてくれと。」
「いやぁ、彼、占いができるらしくてね、ここの観光客に人気なんですよ。笑顔も愛嬌があってかわいいし、まぁ、右目が潰れてて醜いんですが、一応眼帯していますし、いい客寄せですよ。」
観光ガイドは再度豪快に笑った。
「それは、僕も行ってみようかな。」
「それはいいですよ。私も占ってもらったんですがね・・・」
観光協会までの道筋、ガイドはべらべらとよどみなく喋り続けた。
観光協会には行列が出来ていた。
「すげぇ人気・・・だな・・・」
カイロとアギィは列に並んだ。
予想以上に列の進みは良かった。入り口が近づくにしたがって、にこやかな観光客が出てくるのとすれ違った。
「みんなそんなにいい結果ばっかなのかな?」
「話術じゃない?」
「は?」
「ジャム君は能力に、未来を読める力があるんだ。それを、どんな不幸なことでも見えたらそのまま伝えるんだけど、言葉を巧みに使えば、不幸なことも不幸じゃなくなる。あとは表情。ジャム君は人の心を癒す能力を持ってるんだね。きっと。」
「えらい知った風だな。」
「一緒に居て、気付かない君はえらい鈍感だね。」
アギィは心当たりを思い浮かべて、言葉を失った。
「次のヒト〜」
カイロとアギィが中に通される。
「・・・カイ・・・」
ジャムがカウンターの向こうに立っていた。唖然とした表情で。
「シー」
カイロが人差し指を唇に当てる。
ジャムは口を噤み、笑顔で2人を迎えた。
「黒い翼の少年、僕たちの未来を占ってくださいな。」
カイロは目を細めて呟いた。
ジャムもそれに頷き、二人の額に指を当てて、目を閉じた。
「とても大事な決戦が控えてますね・・・大きな決断をあなた達はせまられます。そしてそれは・・・とても・・・大事な・・・」
ジャムは言葉を止めて目を開けた。
入り口にヒトが3人立っている。
透き通る黒い長髪に詰襟の男
鼠色の双翼に同色の髪、そして金色の瞳の男。
それから、ジャムを鏡に映したかのような少年。
カイロとアギィも振り返る。
「おや、逃亡者が3人も此処に・・・」
長髪の男が口の端を鋭利に引き上げ、低い声で呟いた。
ジャムはその場で巫力を発動させた。
アギィは例の如く蹲って耳を塞いだ。
ジャムの巫力をキルトが弾いた。
「そんなの効かないよ」
キルトは舌なめずりをしている。
ジャムがカウンターから出てきた。
「僕は君たちに付かない!カイロとアギィが僕の仲間だ。」
「だが、世界は私達の味方だ。なぁ、ヒラー。」
詰襟の長髪・・・バレッド=オスカーが流し目で鼠色の双翼族に話しかける。
「・・・貴様がバレッド=オスカー・・・」
アギィが起き上がり、奥歯を噛み締めた。
鼠色の双翼族・ヒラーは目を閉じ、眉間に皺を寄せ、しばらく考え込んで口を開いた。
「・・・私は・・・ジャム様の味方です。」
その言葉に、キルトが巫力で押さえつけた。
「ヒラー!」
ジャムが叫ぶ。
「私は、ジャム様が世界を一つにしてくれると信じています!」
ヒラーの巫力が発動し、キルトを弾き返した。
「俺は、仮にもルチア=ローウェイの息子なんだ。そんなゴミみたいな力、簡単に弾き返せる。」
キルトは怯んだ。
ヒラーの周りを巫力のオーラが覆っている。
「父さん・・・いや、カイロさん。ジャム様を助けてくれてありがとうございました。」
「ヒラー=ヴィラド=オスカー・・・だね?」
カイロがヒラーに近づき、肩を叩く。
「すまなかった。」
「・・・父さん・・・」
「うわぁぁぁ!」
「父さん危ない!」
キルトの巫力から生まれた刃がカイロに向かって放たれた。
それに気付いたヒラーがカイロを押しのけて飛び込んでいった。
「ヒラー!」
ジャムが叫ぶ。
パチンという音で、巫力の刃が弾けとんだ。
その瞬間、キルトにその刃が刺さった。
「キルト!」
「ぐはっ・・・」
ジャムはキルトに駆け寄った。
事のあらましを、バレッド=オスカーは冷たい目で見ていた。
「キルト、大丈夫?キルト・・・」
「・・・ジャム・・・僕・・・は・・・」
ジャムはキルトを抱える。
「そのくずに巫力を与えたのは私だ。」
バレッドはニヤニヤして言う。ジャムは背筋が凍った。
「キルト=バーレンには巫力など宿っていなかった。ただ無駄なルチア=ローウェイの記憶だけ。双翼族とはヒドイ生きものだな。ルチアの生まれ変わりが双子。と言われれば、双子とも巫力が宿るものなんだろうと勝手に思っていたのだろうな。実際力が宿ったのは弟。ルチアが本当に伝えたかった記憶を無能と決め付けて、双子は縁起が悪いとかうまいこと言って里から追い出す・・・それでも生き残ったのは神の力だ。・・・つまりは俺の力だ!そう、ルチア=ローウェイをそのまま現代に蘇らせたのは俺だ!神である俺が、キルトをルチアにしたのだ!俺だからできるんだよ。俺が神だから!」
その言葉は自分を寛大評価している口ぶりだった。
自分より勝るものはいないと・・・そう言っているような・・・
「神は全知全能!全ての頂点に立っていなければいけない!何故その父が罰せられる?罰するのは誰なんだ?全ての頂点が誰かに干渉されるなんてありえないのだ!だが父は罰せられた。何故かずっと考えていた。そして辿り着いたのだ。父は神ではなかった!母を愛した段階で既に神ではなかったのだ!では、誰が神か?神の子であるこの俺が神だ!俺より偉い奴など居ない!俺を上から干渉するものなど居ないのだよ!」
緑色の目を見開き、バレッド=オスカーは高笑いしながら叫んだ。
それを引き裂いた奴が居た。
『バキィ』とすごい音が観光協会の建物の中に響いた。
「アギィ!」
赤紫色の髪が揺らめき、金色の瞳には涙が溜まっていた。
「・・・悲願、達成!」
アギィは涙声で呟いた。
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