黒い翼の少年

ACT.24

周囲の目が怖くて怖くて仕方がなかった。
期待に応えるために、努力して、努力して・・・

プツリと、

糸は簡単に切れた。

暴走した力。
何をしてるのかわからない自分を救ってくれたのは、修道院で学ぶ院生の青年。

鼠色の髪と翼、金の瞳の青年。

ヒラー・・・

***
「ジャム様!」
Sonneの後ろから連れ出された男は、声も姿も紛れもなくジャムの慕う青年そのものであった。あのころと少し違うのは、ヒラーの背中を覆っていた鼠色の翼は両翼とも無残に切り落とされていた。
Sonneはすっとヒラーの目の前で手を伸ばし、ヒラーを静止させる。
「僕と一緒に来ないか、ジャム。」
ヒラーを掴んでいた軍の傭兵がヒラーを掴む手の反対側からタガーナイフを取り出し、ヒラーの喉元に当てた。
これは選択の余地のない脅しだった。
しかし、彼をここで倒しておかなければ、軍全体がこの島に集結してしまい、カイロとアギィは殺されてしまう。
ジャムは奥歯を噛み締めた。
ヒラーは恩人。
カイロもアギィも恩人。
どちらも助けたい。
御巫なのに、どちらも助けられない。
御巫とはなんだろう。
Sonneは何者なのだろう。
巫力を使い、ジャムと全く同じ姿形をしている。
声も同じだ。
一体・・・
「ジャム様!こいつは偽者です!信じてはいけません。ヒラーのことなどお構いなく、今の仲間を大事になさってください!」
ドゴッ!
「ゴフッ・・・」
「ヒラー!!」
ヒラーはそう叫び、傭兵に鳩尾を殴られて気絶してしまった。
「口が便利だと色々不便だね。ジャム、決心はついたかな?」
そもそも、彼が何者だろうが、きっと真実が彼等の手元にあるならば共に行き、情報を粗方盗んでからカイロたちの元へ脱走を図っても手遅れではないのではないだろうか・・・
ジャムは、ツバを飲み込み、大きく一度頷いた。
Sonneはにやりと笑い、指をパチンと鳴らした。
ジャムの後ろから傭兵が現れ、ジャムを羽交い絞めにした。
「この島に上陸した班はしらみつぶしに島を探し、カイロ=サイカとアグリヴォルトを見つけ捕縛せよ!」
カイロたちなら捕まらない。きっと大丈夫・・・
ジャムは目を閉じ、カイロの安否を祈った。
**
飛行船という乗り物はガソリンで動いているらしい。
窒素でふくらんだ風船にくっついている船はオイルの匂いが充満していた。
飛行船内でヒラーと面会することはかなわなかった。
しかし、ジャムの目の前には、双翼族の里を滅亡に追い込んだバレッド=オスカーという極悪な司令官の手先・Sonneがいる。
自分を鏡で写したような姿で・・・
ジャムの両手には手枷が付けられている。足も鎖で巻かれてそこから動けない。
「ごめんね、ジャム。君は例え短い期間とは言えども悪党とつるんでいたから容赦しちゃいけないんだって。」
口では「ごめん」と言っているが、目に謝罪の意識は感じられない。
「僕は君にずっとずっと会いたかった。別れてから随分経つよね・・・選ばれた君を憎んで怨んだこともあった・・・でも、今はそれも許せるようになったんだ。真に悪いのは君じゃなくて双翼族の掟を造りあげた大人たちなのにね。」
「・・・双翼族の里を・・・滅亡に導いたのは・・・君?」
「僕がさ、ジャムのフリをして里に軍人を招きいれてやった。そしたらニンゲンの姿にみんなびっくりで、長老や里主なんか混乱してたもんね。」
Sonneはケラケラ笑って里の滅亡の全貌を喋りだした。
次第に、目の色に憎しみが滲み始めた。
「僕は流民街クレス・ルギアで生死の境をさまよう幼少時代を過ごしたんだ。」

**
ジャム、君と僕は元は一つの魂だったんだよ。
それも、魂の大元はルチア=ローウェイ。
双翼族の開祖といっても過言ではない大御巫・ルチア。
ルチアは僕らが魂の段階である記憶を埋め込んだ。
一つは200戦争の全貌。
もう一つは、ルチアの全ての御巫の能力。
それは、ある仕掛けを解かないと引き出すことができない。
2つの魂が合わさることで、ルチアは200年戦争時の悲願を達成させることを僕らに使命としてかせた。
しかし、現実はルチアの思惑通りには行かなかった。
同時に生まれた、魂の段階の記憶を残した僕と全く記憶を忘れた君とを双翼族の長老たちは引き離した。
ルチアは僕に200年戦争の全貌の記憶を、君に巫力を託した。
ルチアの計画がうまく行っていれば、今の段階で双翼族は人間やこの世界とうまく融合できたものを、最初の段階ですでにその道を絶った。
双翼族の掟に、『御巫の一族で双子は忌まわしい。先に生まれたほうには妊娠時の悪いものが取り付いているから野に捨てる。後に生まれたほうは天より光をもたらすから生かし、真の御巫として育てる』なんて、合法じゃないだろ?
ルチアの時代には少なくともそんな掟はなかった。
僕は生まれつき背負ったルチアの記憶を死に物狂いで引き出した。
ルチアは200年戦争後、人間・・・というよりも人間と神族の混血の青年との間に双子を生み、里に戻ってきている。
里は200年戦争と異種族殲滅戦で人間を嫌い畏怖していた。
そんな状態で人間の子どもを連れたルチアを、大御巫といえども受け入れることは出来なかった。
里から反逆者の烙印を押されたルチアは子どもと別れさせられたうえに人間に売られ、捕まって200年戦争の発端の罪を被って磔にされた。
双子の子どもは父と共にそれを見ていた。
子どもたちは、大御巫を崇めていた母親を人間に売りつけ、全ての罪を被せた双翼族と、磔して、命を奪った人間、双方を深く憎んだ。
その憎しみは子どもたちを悪魔に変えた
もともと成長の遅い神族と特殊の力を持った双翼族の掛け合わせだから悪魔と呼ばれる存在になることは容易だった。
類稀なる能力を発揮して、悪魔に魂を売った子どもは半永久的な命と共に、生きながらえる苦しみを与えられた。
ちなみにルチアの恋した青年は『リト=カイロスト=オスカー』といい、
子どもの名前は兄の方を『ハイト=バレッド=オスカー』
弟の方を『ヒラー=ヴィラド=オスカー』
子供たちは半永久的な命を生かして、今となってはハイト=オスカーはいわずと知れた人間の作った軍の最高司令官となり、ヒラー=オスカーは母譲りの双翼を生かし、双翼族の里を探して侵入した。
2人とも、母の生まれ変わりが今となって生まれたことを知らなかった。
僕は生まれてからすぐ、母親方の侍女と共に流民街クレス・ルギアへ渡った。
生かされたことが母親のできる唯一の愛情表現だったのだろうな・・・
そこで侍女はすぐ流民街の浪人たちに暴行されて死に、赤ん坊の僕はクレス・ルギアの片隅で心優しい人間に拾われ育てられたが、なんせ食べ物にありつけるには毎日が戦いだった。
何度も食い逸れて半月も水すら飲めない日が続いた。
苦しくなると何でも食べられるような気になるものなのだな、黄土もご馳走だった。今となってはとても食べれたものではなかったと思う。
5歳くらいまでそこで育った。
僕を助けたのは双翼の里を探していたヒラーだった。
僕は双翼の里の場所を教えるのと共に、そのとき持ってた胎児の頃の記憶を話した。
ヒラーは早速、兄のバレッドと連絡をつけてくれた。
ヒラーには自分には何も知らない弟がいて、僕と弟は2人でルチアの生まれ変わりになることを話すと、ジャムを命がけで守ると約束してくれた。
実際ヒラーはジャムを命がけで守ってくれた。
僕は記憶を引き出す能力を磨き、ルチアが託してくれた200年戦争の全貌を思い出すことが出来た。
200年戦争に異種族殲滅戦。
ホント、人間はひどい生き物だね。
そして、人間以上に異種族を生み出した神は本当にヒドイ生き物だ。
ジャム、君はそんなひどい生き物の手助けをしているんだよ?
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