黒い翼の少年

ACT.13

ルチア。

ルチア。

俺はルチアを一生守るから。

 

**

ルチア=ローウェイには子孫が居ます。

しかし、双翼族の御巫は婚姻を固く禁じています。

それは御巫の力が偉大すぎるため、国を滅ぼしかねないとルチアが考えたからです。

そう、巫力は神に及ばずとも偉大な力なのです。

そして、それは遺伝しては危険なのです。

今は、いいでしょう。

しかし、遺伝を続けて行ってみてください。

ルチアの持つ偉大な巫力がいつかきっと善と悪に分かれる日がきます。

だから、御巫の上に立つ大御巫は婚姻をしてはいけません。

 

では、何故、大御巫・ルチア=ローウェイには子孫がいるんですか?

 

ルチアの一族が居たからですか?

いいえ、ルチアの持っていたといわれる白茶色の翼を持つ梟一族にルチアの血は全く流れていません。

ルチア=ローウェイは並外れた巫力を持っています。それは、時にルチアの母と父が関係しています。

ルチアの中には双翼族と神族の血が流れています。

母は、御巫の中でも下っ端で、両親を早くに亡くした孤児でした。それを時の大御巫が育てていました。

父は、神が直々に作った自分の分身たち、所謂、神の子ともいわれる神族の神官でした。

ルチアは、ルチアの母が御巫修行で北の大地へ行ったときに出会った若き神官との愛の結晶でした。

しかし、二人の恋は実らず、子どもを生むとそのまま子どもを連れて双翼族の里へ帰ってきました。

ルチアの途轍もない才能を持っていました。

それはルチアの母の育て親も目を見張るものがありました。

ルチアは後に危険な存在になる・・・母もその母もそう危惧していました。

しかし、周囲の持ち上げようはとめることができませんでした。

母の母である大御巫が身罷られ、次の大御巫を誰が担うか。

周囲は当然のようにルチアを候補に挙げてきました。

しかし、反対する母に反発するようにルチアは大御巫の要請を快諾しました。

ルチアの母はその後すぐに病に倒れて帰らぬ人となりました。

幼くして大御巫になったルチアは、次第に自分の持つ力が、周囲の持つ巫力と全く異なっていることに気づきます。

そして、自分の力を危惧するようになりました。

結婚の適齢期となっていたルチアは、執拗な婚姻要請を、禁固の令を発してまで退けていました。

身寄りを亡くしていたルチアの心を支えていたのが、当時、大御巫の隠密として影の仕事を担っていた鴉の一族達でした。

巫力なくして、大御巫と接することができる隠密・鴉。

隠密・鴉には、年のころルチアと同じくらいの青年がいた。

リト=ガーゴイル。

ルチアは特にリトを気に入っており、密命を届けるのはいつもリトの役目だった。

200年戦争の際、ルチアを軍の総本部へ送ったのもリトだった。

ルチアとリト。

全く記録に残されていない歴史。

2人は既に深い関係にあり、ルチアはリトの子を生んでいた。

 

「ジャム君の翼と瞳が漆黒の理由。ルチアが漆黒の種族・隠密・鴉の血を持った子を生んでいてその血がジャム君に流れている。そういうわけ?」

「はい。」

「・・・あの・・・すみません、せっかく調べてくれたんですけど・・・」

真面目な空気に、か細いテナーボイスが割り込む。

「なんだい、ジャム君。」

「そのことなんですけど・・・」

おずおずとジャムが躊躇っていると、

「・・・この情報は双翼族なら誰でも知っているといいたいんだろ?」

と三白眼のリツが呟く。

「・・・あ、は、はい。あの、ローウェイってのは大御巫が代々受け継ぐネームなので血は関係ありません。僕がルチアの子孫ってわかるのも、この黒翼が理由なんです。僕は生まれながらにして双黒でした。一族は雀の一族なんで本来ならば黒と茶色の翼が生まれてこなければならなかったんです。」

「それが、漆黒・・・一族の中にルチアの血があったと?」

「はい、それで一族がみんな舞い上がっちゃって・・・」

ジャムは故郷で起こった何気ない会話一つ一つを思い出しながら、しみじみと喋った。

しかし、そんな昔話には興味ないと言わんばかりに、レイは話を遮った。

「それは調べていって3日くらいでわかりました。しかし、そこから更に調べて言ったら不思議な事実がわかりました。」

**

鴉一族滅んで以来の双黒。

計り間違って鴉一族の子孫が居たかもしれないのに、漆黒が生まれたからルチア=ローウェイの子孫。

それはいささか単純な話だと思いませんか?

ルチアはこっそり子どもを産み落としていて、何かを理由にその記録を伏せた。

伏せた理由として、考えられるのが鴉の一族の血統だから。

ルチアと共に根絶やしにされたとされる隠密・鴉の一族。

ルチアは、なぜ同族の他の仲間を生かして隠密・鴉の一族を巻き込んだんでしょうか?

事実を調べるのに一番大変だったのがそこです。

なんせ、全くネタが上がってこないんですよ。

しかし、北の大地と東の島国の最端まで行ったら面白い話が聴けました。

隠密・鴉は、何も双翼族だけの隠密ではなかったんですよ。

東の群島の中でもカイロさんが育った浦島よりもさらに東の群島よりかけ離れたところに島があるんですが、そこの島では群島のなかでも中心島でもある本島の情報を得るのに、隠密・鴉に良く似た双翼の部隊が居たそうです。

そこの双翼は空も飛べて速いから重宝されていたみたいです。

今となっては、壁画と古い文献でこんなのが居たのかくらいの認識ですが。

北にも似たような双黒の翼を持つ一族が双翼族とは別に居たそうです。

いつの間にか消えていて、存在の確認には至りませんでしたが。

 

そう考えると、鴉の一族は何処にでも居たことになります。

 

双翼族は昔、外と交易していたと考えると、双翼仲間として親しくなって結ばれていた、そして帰ってきたというケースがあるとしたら、双黒が生まれたからと言って=ルチアの子孫とは言いにくい。

 

しかし、さらに歴史を見ていくと、この仮定は簡単に崩れました。

双黒という双黒がルチアの死後、全く居なくなってしまった。

東に居た漆黒の双翼部隊も200年戦争を境に消えたと伝わっている。

その後も、双黒の生き物が生まれた記録が全くない。

ジャム君以外には・・・

「つまり、ジャム以外にこの世には双黒の生き物はいないってことか?」

「細かく言えば、髪も瞳も漆黒で尚且つ同色の翼を持つ生き物はジャム君以外いないということです。」

「ジャムってスゴイ確率で生まれた奴なんだな。」

アギィが口をぱかぁと開けて、ジャムを見た。

「でも、その記録はおかしいですね。」

カイロが顎に手を当てて呟く。

「例え、双翼族がいくつか歴史を詐称してたとしても、ルチアに子どもがいて、その子孫達のなかに黒翼が生まれた記録がないのはおかしいんだろ?」

モン婆さんはカイロの思考回路を読んでニヤニヤとした表情で言った。

カイロは先に言われたことが悔しいのか苦々しい顔で頷いた。

「遺伝は普通、遺伝子のなかでもより強い要素が表に出てくるものです。肌の色でも白い肌の人よりも黒い肌の人の方が遺伝子が強いから、二人の子どもはどっちかと言ったら黒い肌の子どもが生まれてくる確率が高いんですよね。」

「ルチア=ローウェイの翼は白と茶色でしたっけ?漆黒の鴉との間に子どもが生まれて、ルチア側の遺伝子が濃く出てくる確率は低い。」

「それは、ジャム君の翼から採取した羽とそこらへんの鳥の羽で実験して証拠もあります。そこらへんの鳥の羽はジャム君の羽の遺伝子にかき消されました。」

三白眼のリツがそのデータの紙をテーブルに広げた。

ジャムには見方がさっぱりわからなかった。横にいたアギィも同様のようだった。

「ま、同様の方法でジャム君の遺伝子とルチアの遺伝子を比べれば子孫かどうかの有無はわかりますが、残念ながらルチアの遺伝子なんて採取できませんからね。地道に謎を解くしかないわけですが・・・」

「残念ですが、私どもではここまでしかわかりませんでした。」

レイは分厚いメモをパタンと閉じた。


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