ヒラー、教えて欲しいんだけど・・・
――なんですか?
僕の羽はどうして真っ黒なの?
**
目を開けると、コンクリートの天井が飛び込んできた。
コンクリートむき出しの壁と床。
布団に入っているけど、冷たく感じる。
ジャムはもっそりと起き上がり、周囲を見渡す。
窓側に人影が見えた。
ジャムが動いたのを横目で見たのか、影はこちらを向く。
カイロだった。
「ジャム君、眠れませんか?」
「カイロも?」
「“昔”を思い出してました。」
「昔?」
ジャムはカイロの向かい側に腰を下ろす。
「ええ、僕のふるさとを。」
「カイロは何処の国出身なの?」
灰色の髪が月の光・・・というより、外のネオンで光ってキラキラしている。いつも細くてよく表情が読めない目も、光の加減で真っ白にみえる。眼球の枠だけがくっきりと見えて白目と黒目の区別はつくが色は同じように見える。
「僕は東の国で育ちました。東の群島のなかでも一番小さい浦島という島です。」
「前から不思議に思ってたんだけど、カイロって人間なんだよね?」
灰色の髪に、灰色の瞳。
人間も色んな種族が混ざって、色んな髪の色や目の色がいておかしくはない。ただ、カイロはその割りにその色が綺麗に出ているほうだと思う。
「人間ね。まぁ、人間に育てられたから人間という種族の区分になる。それだけなんだけどね。」
「?どういうこと?」
「僕は、残念ながら記憶が欠落してるんですよ。気づいたら浦島の最南端の森の中にいたもので。そこから前の記憶はありませんが、前世・・・なんですかね、“僕”じゃない人の記憶はあるんですよ。」
カイロは肩肘ついて窓の外を見た。
「その人は人間じゃない。もう消えてしまった神族という種族でした。」
「じゃあカイロは神族の子孫ってこと?」
「さぁ。」
「カイロの旅の理由って何?」
「バレッド=オスカーをこの世から消すことかな。」
カイロはそのままの姿勢で表情も変えず、さらりと言った。
「それは、君やアギィが復讐したいと思うのとはちょっと違いますが、似てはいます。」
カイロの口調はいつも何かを含めていて、難しい。
「この世の中には色んな種族が居ます。それは人間も含めてです。ジャム君は人間が“人間”という種族だと思いますか?」
「・・・?よく分からない・・・」
「人間は神を殺しました。万物の大元である神を・・・ですよ?そんな種族、本当に居ると思いますか?」
カイロの目線がきつくなった気がした。
「万物を作り出すものを消すことなどできるとしたら、それは悪魔ですよね。」
ジャムは背中がぞくっとした。それはカイロの言ったことが怖かった。それもある。でもその言葉を吐いたカイロの表情は今まで見たことがないくらいの憎悪み満ち溢れた表情だった。
簡単に話を済ませて、ジャムは床に戻った。
*
ジャムは昨晩のカイロの言葉が耳から離れないで居る。
『万物を作り出すものを消すことなどできるとしたら、それは悪魔ですよね。』
カイロはバレッド=オスカーを追っている。というより、消し去ることを目的としている。
アギィと僕は同族を殺されたことの復讐としてバレッド=オスカーを追っている。
魔族と双翼族、双方とも人間に楯突いたという理由で消された。
神を殺したものは人間。
とすれば、今現在、万物の頂点にいるのは神を殺した人間。
神=人間とすれば、魔族も双翼族も神に楯突いたことになる。
でも、人間は神ではないし、神はこの世にもう居ない。
まてよ。
神は万物を生み出す全知全能の存在。
人間もまた、神に作り出された存在。
要するに、僕が双翼族の里で飼っていたカエルや蛇に殺されちゃうってこととおなじなのかな?
殺されることってあるのかな?
僕がカイロやアギィに殺されるってことは想像がつくけど、カエルさんや蛇さんに殺されるなんて想像できないなぁ・・・
あ、でもカエルさんが自分と同じかそれ以上に知能があったらそれも有り得るか・・・
ん?
じゃあ、人間の中に神と等しいかそれ以上の人がいたって事か?
でも、そんなの突然変異だよな・・・
神が全知全能だからこそ、そんなことって起こりうるのかな・・・
あ、
そういえば、神ってなんで生まれたのかな?
神という存在があったら、神を作った神がいるってことじゃん。
その神を作った神が神以外の何かを作り出してたとしたら、そいつは神を殺すことができる。
「だめだーーーーーーーー!判らない!」
「何だよいきなり!」
アザミのバーカウンターでジャムは諸手を挙げて叫んだ。
隣で酒を煽っていたアギィが驚いて注ぎたての酒をこぼしていた。
「ごめん、アギィ、ちょっと考え事してて・・・」
「ったくなんだよ・・・」
アギィはジャムに背を向けて、ちびちびと酒の続きを楽しみだした。
「ねぇ、アギィ・・・」
「あん?」
せっかくの楽しみを邪魔されて、アギィは嫌な顔をジャムに向けた。
「バレッド=オスカーってさ、なんで人間にとっての脅威を殲滅って形で葬り去ろうとするのかな・・・」
「知るかよ。バレッドなんか人間じゃないんだよ!顔色一つ変えないで消せるなんて悪魔だ、悪魔!」
「・・・悪魔・・・」
ジャムは昨日から頭の中で焼きついて離れない言葉を、ゆっくり口にしてみた。
背中をぞくっとした何かが駆け抜ける。
右半身がとても疼く。
ジャムの脳裏に何か嫌なものがよぎっていく。
火の中で感じたソレを、ジャムは徐々に思い出しつつあった。