伝説の石版

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この世界は神様が造りました。
神様は、棲める土地を造り、棲める人を造りました。
棲める土地は神の土地、棲める人は神の分身。
みな、神様を讃えて、世界の安寧を願い暮らしていました。
しかし、ある時、悪魔が現れました。
悪魔は、神の土地を奪い、神の分身を殺しました。
神様は嘆き、悲しみ、悪魔に罰を与えました。
悪魔は、神の土地の端っこへ閉じ込められました。
 
この世界は神様の世界。
この世界に棲む者はみな神の分身であります。



長い月日は、一族を滅ぼしつつあった。
 両手で数えられてしまうほどに減少した一族は、この日、寒い風が唸る中、馬の皮で作ったみすぼらしくも、大きいテントの中で、青白い顔をして横になる老人を囲んでいた。
 「族長様!!」
囲む一族は、手を取り合い、死の床についている老人に気を送った。
「しっかりしてくださいませ!!」
「われわれがついています!!」
一族の想いが通じたのか、族長は、しわ皺の手を挙げ、
「パ……シュパを……これへ…」
と最後の力を振り絞って必死に何かを呟き始めた。
一族の輪から、二歩ほど下がったところで瞑想していた少年が伏せた目を上げ、ゆっくり立ち上がり、族長の枕元に座り、上がった手をきつく握り締めた。
「何でございましょうか?…族長様…」
シュパという少年は、低い声で、横になっている族長に話しかけた。
「シュ…パよ…お前はこの一族の最後の若者…なんとしても血を…この一族の血を絶やしてはならぬ…此処をでるのだ…シュパよ…」
「・・・お祖父様…」
震える声で、言い切ると、族長の手から力が抜け、瞳は固く閉じられた。
その瞳はもう二度と開くことはなかった。
一族の輪の中からすすり泣く声が響き渡った。
シュパは、老人の皺だらけの手を、死者の胸の上で組ませ、わき目を振ることなく、まっすぐ立ち上がり、テントを後にした。
冷たい風は、シュパの身体を刻み付けるように吹いていた。
「シュパ…」
テントから出たシュパを見て人々が駆け寄る。
みな、シュパよりも大分歳のいった人々ばかりである。
「みなさん…族長は…」
シュパが神妙な面持ちで口を開くと、集まってきた人々はみなその場に泣き崩れた。
シュパの後ろを、老齢だが、ガタイのしっかりした男がテントから出てきた。
「みな、族長は先ほど、この唯一の若者にこの一族の命運を託し、身罷られた。我々は、この未来を担う唯一の若者を信じ、吉報を待とうではないか!」
「わぁぁ」と泣き崩れた人々は、悲鳴か歓喜の叫びかわからないような声を上げた。
「シュパよ…コレを…」
シュパは、老齢の男の声で振り向いた。
男は、手に握っていた擦り切れた布の袋をシュパに渡した。
「これは…一族の長を示す、五色の石版…」
シュパは巾着を受け取り、戸惑いながら老齢の男性を見た。
老齢の男性は力強く頷き、
「シュパ、コレを託すことは、一族を一身に担うことを現す…族長様が望んでいたことだ。」
と言い、シュパの手を強く握った。
「思えば、我等の先祖がこの辺境の地へ来てから何百年と経っている。血は段々と濃くなり、身体の弱い者、早くより命を落とす者が増えた。その中で、この近年でシュパ、お前だけが唯一15の歳まで生きることができた…お前を抜かせば、みな先の無い老齢なものばかり…そんな我等とて何時死ぬか分からぬ身、この血を絶やしてはならない、シュパ…一族を甦らせられるのはお前しかもういないのだ…」
老齢の男性の目から涙が一筋流れた。
シュパは老齢の男性の想い、シュパを囲んで泣き崩れる者達の想いを受け、力強く頷いた。
「…叔父さん…みんな、僕、皆からの使命を必ず叶えて帰ってくるから…」
『シュパ』
シュパの肩に一匹の黒い鳥がとまる。黒い鳥は喉を鳴らしてシュパを呼んだ。
「クピ、君も来てくれるの?」
『俺が育て親だし、唯一の友達だろ?』
「クピ様、シュパをお守り下さい…」
老齢の男性は黒い鳥に向かって深々と頭を下げた。
『任せてよ。この一族を守るのが俺の使命だから。』
クピと呼ばれた黒い鳥は、重く圧し掛かる雲に向かって嘶く。
「行こう、クピ…」
少年は懐に巾着を仕舞いこみ、荷を背負うと、一度だけ振り返り、笑みを浮かべ、一族のみなを目に焼きつけ、一族の集落を後にした。


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