黒い翼の少年

ACT.14

「兄貴、行くの?」

「アザミも、適当に元気で。」

「・・・うん。」

「・・・寂しいか?」

「ちぃーっとも。ま、でも気が向いたら帰って来いよ。」

「あいよ。」

アギィは妹のブラウンの髪を優しく撫でた。

***

グランドクレスの大門が時間で大きな鐘の音色と共に閉まった。

ジャムたちは門外でソレを見ていた。

「長く滞在したね。」

「クレス・ルギア以来かな?長期滞在は。」

カイロがジャムをつっつく。

「あそこにはどれだけ居たのか、感覚ないよ。」

ジャムはうつむいて呟いた。クレス・ルギアでカイロたちに会う前のジャムは、ただ空腹と憎しみと戦っていた。

時々耳に入ってくるジープの「ボフンボフン」という唸り声と鼻を突く埃臭く、油臭い匂いが、周囲に何かあることを認識させてくれた。

 

「さて、これから東に行くよ。」

「おい、東って・・・もちろん南経由だよな?」

アギィがおどおどした様子で聞く。

「いや、今回は中央を経由しようと思うよ。」

アギィは黙ってカイロの頭をどついた。

「いったいなぁ、なんだよ。大丈夫だよ。」

「何を根拠にそんな台詞が言えるんだよ!」

「【ミドル・キャスト】に上陸しなきゃいいんだよ。」

カイロはそういうと口の端を上げた。

「嫌な予感がする・・・」

 

ジャムたちはグランドクレスから東に向かって歩いた。

1日と半日ほど馬車道を歩いて、その港は見えてきた。

「【ポットダーツ】という船着場だよ。漁船とか貨物船とか商業用の船しか停まらない船着場なんだ。中には中央を経由して東に行く貨物船もあるから、それに忍び込もうと思うよ。」

カイロはニコニコしている。

アギィはげっそりした顔でソレを眺めていた。

「アギィは船が嫌いなんだよ。」

カイロが少し困ったような表情を浮かべながらジャムに耳打ちした。

 

中央を経由する貨物船を捕まえて、ジャムたちはこっそり乗り込んだ。

乗り込んだ先で、アギィが貨物を抱えて固まっていた。

ホントにダメなんだ・・・とジャムは硬直しているアギィを気の毒そうな表情で見つめていた。

「僕らは今まで陸上の旅しかしてこなかったんだ。」

貨物船の荷物倉庫に落ち着いたカイロが呟いた。

ジャムはカイロの声でアギィからカイロのほうへ向き直った。

「僕らが出会ったのも【サウザリアン】っていう南方大陸だったんだけど・・・あ、【ウエスト・ランドル】と【サウザリアン】の間にも海があるんだけど、この2大陸の間には連絡橋が通っているから船が必要ないんだよ。」

外の世界を知らないジャムにも判るように説明を交えて、カイロがアギィとの出会いを話し出した。

「僕とアギィが出会ったのは【サウザリアン】っていう南方大陸の【ヒマネス】っていう国だった。」

**

【ヒマネス】はサウザリアンの中でも治安が悪い地域でね、僕はふるさとの浦島を出たばっかりで、旅のイロハを全く知らなかったんだ。

そんな僕が、普通の旅人風情で歩いてたら、悪党からすれば『良い鴨』だよね。

ま、案の定悪党に囲まれてしまったわけですよ。

立ち向かう術もなかった僕を助けてくれたのが、アギィだった。

赤黒い髪に紫の瞳、それに尖った耳は魔族の象徴だったから、彼が魔族・それも『朱の魔族』ってのがすぐ分かった。

「ありがとう。助かったよ。」

助けてもらってお礼を言って、僕は立ち去るつもりだった。

魔族が怖い生き物ってのは、歴史書とか読んでいたから知っていたしね。

そしたら、

「おい、待てよ。お前・・・助けてもらってそれだけなわけ?」

今度はアギィに絡まれた。

「普通、金の一枚や二枚置いてくのが筋ってモンだろ?」

「僕の国にはそういう風習がなかったから・・・でも、金なんて持ってないな・・・えっと・・・あ、銅銭ならあるんだけど・・・」

僕は必死で財布から出せる額の小銭をアギィに渡した。

すると、アギィは僕の銅銭を地面に叩きつけて、

「お前、舐めてんのか?」

「え?いや・・・」

「これっぽっちで人助けするバカが居ると思うか?ああん?」

助けてくれたのは事実だし、恩義はものすごくあるけど、当時の僕に商売の知恵なんてなかったし、お金だって持ってないし、どうしようもなくて・・・

「あ・・・君、魔族でしょ?」

僕の専売特許といえば知恵比べ。

アギィの触れて欲しくない部分を僕は見抜いて、アギィの耳元で呟いた。

すると、アギィは僕の胸倉から手を離して、「ばれたか」といった表情で僕を見つめた。

「僕はこれこの通り文無しの一人旅なんだ。ちょっと訳ありで表を堂々と歩けない。君も、その風貌だと、裏の世界で食っていくしかないように見受けるけど、裏道の者同士、君、僕のボディガードをやらないか?もちろん報酬は、僕の使命が果たせたときにたっぷりと・・・」

これでうまくいったと思った・・・

でも、

「ふざけるなっ!」

アギィはそう叫んで再度僕の胸倉を掴んだ。

「俺は確かに『朱の魔族』で表を堂々となんて歩けねぇ。だが、俺はさっきの奴等みたいに堕ちちゃいない!俺にだて使命があるんだよ!」

そういうと、僕をおもいっきり地面に投げつけた。

「貴様の報酬で喰ってくぐらいなら、俺は一人で使命を果たす。」

アギィは僕に背を向けると、捨て台詞を残して街の雑踏に消えた。

 

【ヒマネス】にもジャーナリストが居てね、僕は浦島に居た頃の伝手を駆使して【ヒマネス】のジャーナリストのところに世話になってたんだ。

ジャーナリストの名前はレンジ。

普段は【ヒマネス】の情報誌を編集する会社で働いていた。

自由奔放な人で、僕が居ようが居まいが平気で半年とか取材に行ってしまう人だった。

レンジが取材で逃亡してたときなんかは僕が雑誌編集手伝ってたりしてたんだ。

2,3年、僕は【ヒマネス】に滞在してた。

その間に僕は何度となくアギィと会っていた。

それはホントに偶然で、突拍子もない場所だったり、シチュエーションだったりしたけど、こうして出会ってくのにはなんとなく運命的なものなんじゃないかって感じるようになった。

【ヒマネス】滞在の後半なんかは僕はアギィとすっかり仲良くなっていて、レンジを交えてご飯を食べたり時には恋愛相談なんかもしてたかなぁ・・・

そんな折、レンジがジャーナリストの依頼で出かけて二度と帰ってこなくなった。

「【ノース・アイランド】であいつの死体が見つかった。」

雑誌編集の会社の社長が僕にそう告げた。

僕は、発狂しそうになったよ。

浦島でさえ養父母に心を開かなかった僕が、初めて心を開けるようになった人だったから。

社長はレンジがなんで【ノース・アイランド】に行ったのか不思議がっていた。

でも、僕はレンジが何を調べていたのか知っていた。

そして、そのとき初めて、僕はレンジの成し遂げようとしたこと、そして僕のしようとしていることが危険で恐ろしいことだと知ったんだ。


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