――おやおや、何処の子どもだい?
――髪も眼も真っ白じゃないか?
――いや、白・・・じゃないね、銀?違う。
“灰色”
じゃないか?
**
この世界の不思議なところ。
万物は神が創る。
神の居た北でそれらは生まれて、南で栄え、西で安住し、東で衰える。
誰が決めたわけでもない神言を、この世界の人は信じている。
ニンゲンは、神の居た北で生まれて、神を殺し、南で栄え、西に安住している。
衰えを知らない人間は、東に行った事あるのだろうか?
世界の東側には、本当に死に行く種族しかいないのだろうか?
***
「相変わらず雲行きが怪しいな。」
「おい、カイロウ、船を砂場まで上げておいてくれ。今日はでかいのがくるぞ。」
同じ漁場で師と仰ぐ老人に呼ばれ、青年は網を倉庫に仕舞うと漁船の船舶している沖へ走った。
木の板をお粗末にくっつけただけの船舶から、青年は船を砂場に上げた。
木をつなげる綱は潮によりもろくなっていた。
青年が高波に飲まれる要因は十分にあった。
「カイロウ、おいカイロウ・・・?何処行きやがったんだ・・・」
**
天井がある。
木の木目がお化けの目のようで驚いて起き上がった。
「大丈夫か?」
声を掛けられ、青年は更に驚いた。
「おーい、姉ちゃん、気づいたみたいだよ。」
目を声の主に向ける。10歳そこらの少年が自分の座っている布団の脇に座っていた。
“姉ちゃん”と呼ばれ、奥から少年よりも5〜6歳年上と見られる少女が出てきた。
2人とも黒い髪にこげ茶色の瞳をしている。
来ている物も、浅地を切りっぱなしにした粗末な布に腕を通して腰紐を結わいでいるだけの格好だった。
「あんさん、大陸もんだべ?」
木の板をお盆代わりに使っているのだろうか、板の上に土製の器が乗っている。
「これ、この辺でしか取れない海草の雫じゃ。栄養満点だからぐいっといっとけって。」
少女は、女が使うには汚い言葉遣いで黄緑色の液体を青年に薦める。
「あんた名前は?」
青年の飲み干したものはとても飲めた代物ではない。青年は気絶寸前の状態だった。
でも、少女はそんな青年の状態を気にも留めず、質問をぶつける。
「大陸もんだろ?大陸のゴミとか植物の種とかは漂流してくるけど、人が漂流してくるのは初めてだよ。」
「・・・」
「あ、もしかして言葉わからない?神様の創るもんて、言葉とか万物共通かと思ったけどそうじゃないかな?」
「・・・いや、わかるよ・・・」
「なんじゃ、しゃべれるじゃん。」
少女は女らしからぬ大声で豪快に笑った。
「名前は?」
「カイロウ・・・」
「何処から来たの?」
「サウザリアン」
「しらん。大陸モンか?」
「・・・じゃあ、それでいいよ。」
「此処は東港【エスター・コート】の浦島じゃ。」
「エスター・コート・・・」
「あたしはこの島のアイドルじゃ。芽衣子ゆうの。で、あんさんを助けたんがあたしの弟で時郎(ときお)っていうの。」
「エスター・コートって東の国だよね?」
万物には神言がある。
万物は神により北で生まれ、南で栄え、西で安住し、東で衰える。
青年・カイロウが流された国は衰えた種族の集まる国・東の島国【エスター・コート】
たくさんの島々が群がるこの国は、船交通が主流と聞く。
衰えた種族の群がる国だから、もっと疲弊した国だと思っていた。
帰り道の判らないカイロウは、この国に滞在することになってしまったが、この国の人たちはカイロウの住んでいたサウザリアンよりも元気で活気に満ち溢れていた。
芽衣子も時郎も“鬼”という衰退していく種族で、髪の毛でわからないが頭部に二本の角がある。
「カイロウ、カイロウってニンゲンって種族なのか?」
「ちがうよ。」
「じゃあ何?」
「俺は神族。」
「神言でいう“Sonne”だろ?カイロウは天空の人なんだぁ」
「その天空人の落第生だよ。」
カイロウが【エスター・コート】に流れ着いて彼是10年近く経った。
その10年で、カイロウはあの時の鬼の子どもと仲睦まじく所帯を築いていた。
そんな時、事件は起きた。
「おいちゃん!おいちゃん!」
芽衣子が血相を変えて鬼族の母屋に駆け込んできた。
「カイロウが消えたって・・・カイロウは・・・」
「芽衣子っ・・・」
鬼族がずらりと族長の周りを囲んでいた。
「ねえちゃん、嘘じゃねぇ。俺の目の前でにいさんは消えたんだ・・・」
時郎が芽衣子に近づく。
「鬼族も終わりだ・・・芽衣子、我等はそろそろ北へ戻ろうと思う。」
「・・・っ」
芽衣子はその場で大きなお腹を抱えて崩れ落ちた。
「族長、ねえちゃんだけでもなんとか此処に残れねぇかな?」
崩れ落ちた姉を抱えて時郎は必死に族長に訴えた。
「カイロウはきっといつか此処に帰ってくる・・・ねぇちゃんだけでも・・・」
「・・・だめだ。」
「族長っ!」
「先ほど神言が届いた。どうやらニンゲンが・・・神を殺したらしい・・・反抗した双翼族という鳥の種族が磔となり、神の国に曝されている。ニンゲンは異種族という異種族を狩っていると聴く。鬼族も危うい。それにカイロウは神族の者だった。神が居なくなってしまえば“神の子”など生きられない。」
「・・・じゃあ、カイロウは・・・」
「嫌じゃ!あたし、カイロウのとこへ行く!!お腹の子どもとカイロウのところへ行く!」
芽衣子は族の母屋を飛び出した。
奇しくも、カイロウの消えた日は、カイロウが漁村から流された時の様な、どんよりした空と荒れた海模様の日だった。
芽衣子は重い空模様の下、浦島最端で姿を消した。
同日、鬼族は北へ向かい、一族は滅びた。
***
【エスター・コート】
神言によれば、万物の衰える地。
人間が、神を殺し、世界を掌握するまでの言い伝え・・・
今は、人間が住み着き、漁業を中心に栄える島を寄せ集めた小さな国。
「おやおや、子どもじゃないか?」
そのなかでもより小さな島・浦島という島の最南端にその子どもがいた。
「なんだよその髪・・・瞳もか?真っ白じゃないか?」
「いや、白・・・じゃない・・・銀・・・違う。灰色か?」
お前、名前は?
なんだ喋れないのか?
髪も瞳も灰色か・・・
“灰郎”【カイロ】
ってのはどうだ?