朗君自慢戦+
愛は女を強くする。
愛に生きて女は輝く。
連れ添う男を誇ることは女として磨き来た自分自身を肯定することでもあるのか…
建安5年(200)、4人の女性がそれぞれの夫のために火花を散らす。
後に語られることの無い戦が、ここに幕を開ける…
真三国無双4猛将伝より引用…
月英は自慢の武器、蒼月を手に、意気揚々と決戦の地に乗り込んできた。
諸葛亮孔明とその妻、月英の元に、謎の仙人から文が届いたのは一昨晩のことだった。
『善き夫婦一組にのみ玉璽を授けよう』
と言った内容のもので、どれほど夫婦の絆が強いか、競い、勝者にその玉璽が渡されるのだと言う。
これこそまさに、孔明様の実力を他の愚かな奴らに思い知らせるいい機会ではないか。特に、あの魏の若い君主とその妻には個人的な恨みが灰の山のように積もっている。
「孔明様!!行きましょう!!」
「…はぁ…まぁ、月英がそういうなら…」
孔明はあまり乗り気ではない様子であった。
かくして、決戦の地、桃の花咲く建業に立つ羽目になった、諸葛夫妻は、早速、仙人の仕掛けた罠がある砦の攻略を始めた。
「さぁ、孔明様、参りましょう!!」
月英の目が怪しく光りだす。魏の曹夫妻を探しているのだろう。
「いや、月英、そちらはあまりいい感じがしません。私は迂回して…」
「シャァァァァ…お待ちなさい。夫婦は仲睦まじく、手に手を取って進むことが決まりなんです。勝手な行動はいくら孔明様でも……」
月英はやんわりとした笑顔を浮かべているが、オーラが明らかに赤黒い。こういうときに逆らって、孔明は一回、虎戦車で丸焼きにされたことがあった。
「…スミマセン…」
天下一聡明な軍師は、学習能力が極めて高い。触らぬ神に祟り無し。
「ねぇ、周喩様ぁ〜、見てみて、早速夫婦喧嘩してる人たちがいるよぉ。」
「そうだね、小喬、かわいいねぇ〜」
「かわいいねぇ〜」
諸葛夫妻を鼻で笑う声を聞きつけ、月英は面を鬼に変え、声の主らを睨み付けた。
「まぁ、誰かと思ったら、蜀の軍師様とその冴えない奥方様ではないのぉ」
キィィィ、小娘め、赤壁での手柄は孔明様のおかげだというのに…
「あぁら、ご機嫌麗しくて、呉のヘタレ…おっと口が…もとい、呉の軍師様とその娘さん…あらごめんなさい。奥方様でしたわね。あんまりにも幼くて、呉の軍師は幼女萌えのご趣味でもお有りなのかと…」
「むきぃぃ、周喩様の悪口言うなんて、いくらとしまばばぁだって許さないもんね!!」
月英たちの前に現れたのは呉の希代の軍師・周喩とその妻・小喬だった。
小喬は、扇型の暗器・喬佳を構え、周喩を後ろに退けさせて、月英の前に立った。
「ふふ、浅はかな小娘だこと。この私に、敵うとでもお思い?」
月英は蒼月を構え、旦那の制止も聞かず、果敢に周喩に向かって切り込んでいった。
「ノォ〜」
ヘタレ軍師は、突然の出来事に対処遅れて遥か遠くへ飛ばされていった。
「あ〜、卑怯よ!!周喩様になんてことをしてくれるのよ!!」
「ふふ、女の戦いなんて、卑怯に卑怯を重ねた醜いものと、前世の昔から申しますでしょう?」
無茶苦茶な論理だ。孔明は頭を抱えた。
「も〜う、許さないもんね!!ばばぁは、早く隠居しなさいっよ!!」
小喬は両手に構えた喬佳の刃先を月英に向けて投げ飛ばした。
「ふん、甘いわ。」
月英はそれをさらりとよけて、戈先で、小喬を飛ばした。
「むきぃ〜覚えてなさいよ!!」
周喩夫妻はぼろぼろの身体を背に、敗走していった。
「愚かな若造…孔明様の素晴らしさを身を以て知りながら刃を交えようとは…ま、敵う訳もありませんでしたわね。」
月英は笑顔で、孔明を見つめる。かの孔明は口の左端をヒクヒクと上げ、苦笑いを浮かべていた。
仙人の仕掛けた罠砦@を難なくクリアした諸葛夫妻は、第二の関門を迎えるべく、新たな砦へと進んだ。
「あぁ、玉璽を狙う夫婦です、孫策様!!」
ここでも、また同じような夫婦が現れた。仙人はいったい何組の夫妻を呼んだのだろう。
「おぉ?あれは蜀の諸葛亮って有名な軍師じゃねーか?ははは、机上の策より武が上ってこと、教えてやろうずぇ!!」
これは呉の若君、孫策とその妻、大喬だ。孫策は確か、破竹の勢いで、孫呉を大きくしていることから小覇王とかなんとか呼ばれている。
「…しかし、小覇王でも大魔王でも、孔明様の麗しいビームには適いません事よ!!」
「…月英、無理を言わないでくださ…」
「あぁん?」
「スミマセン…」
諸葛亮、字は孔明。蜀の希代の軍師であり、後の世にも学問に大きな影響を与え、当代きっての天才軍師とまで称された。唯一つ、恐妻家だったことは後にはついぞ語られてはいなかった。
「ビーーーーム。」
孔明の羽扇から白いビームが飛び出した。
「ノォ〜」
周喩同じく、孫策は可憐に宙に舞った。
「あぁ、孫策様!!」
大喬の目線が孫策を追う。
「よそ見していていいのかしら?」
その隙を狙って、月英は、蒼月を振り上げた。
「キャァァァァ」
大喬も美しく、宙に弧を描いた。
「ちくしょう、覚えてろ!!」
「この屈辱、忘れません!!」
孫夫妻は悪役定番な捨て台詞を吐きながら敗走していった。
月英は、その二人の背中を見送りため息をついた。
「一体、この戦はなんなのでしょうか?」
今更それをいうな!!今更!!
孔明は激しく心の内で叫んでいた。
二つ目の砦は少々苦労しつつもクリアした。ニセ孔明に月英が戸惑ったこと、そして、本物孔明を思いっきり戈で飛ばしてしまったことが苦戦の理由であった。
「これで最後の砦です。孔明様。この試練に勝てば、玉璽は私たちのもので、孔明様は愛妻家として、後の世にも深く名を残しますわ。」
…そんな称号、いらない…
孔明は激しく心の内で呟いていた。
「行きましょう、孔明様。」
「お待ちなさい!!」
月英と孔明が砦に踏み入れようとしたそのときだった。
『ヒヒィン』
という馬の嘶きが聞こえ、2人はその方角を見やった。
逆光で、よく見えないが、崖の上に、馬が居て、その上には女が跨っていた。その後ろには、触覚のような綸子が見え隠れしている。
「その玉璽、あなた方には渡さなくてよ!!…トウ」
馬が地面を蹴り、崖から弧を描いて降ってきた。
綺麗に着地した馬は、血のように赤い毛並みをしている。その馬に跨った女は、絹の胞を纏い、牡丹の大きなコサージュを腰につけている。両手には綺麗に装飾された玉錘が輝いていた。
「あなた、何者?」
月英はその女を見たことが無かった。魏の奥方にしては若いし、妖艶さが足りない。
「私のことは知らなくて当然ですわ。でも、私の愛する奉先様を見れば、きっと尻尾巻いて逃げること必至ですわ。」
女は馬から玉錘の先を月英に突きつけて言う。
「…赤い馬…赤兎馬ですね…ということは……月英、離れなさい!!逃げます!!」
孔明は分析し終わると、慌てて、月英を女から引き離した。
「孔明様?」
「あそこに居るのは…」
女の口端がにぃと引きあがる。
「さすが、劉備軍きっての軍師様ですわ。そう、あのお方こそ、天下無双の鬼神、呂布奉先様ですわ!!」
「くっ…なぜ、鬼神が生きているのです?奴は曹操が討ち果たしたはず…」
「パラレルですものなんでも有りですわ!!…さぁ、奉先様、私のためにこの戦いを制してしまいなさい!!」
・・・・・
「…?」
「奉先さま?」
3人はゆっくり崖の上を見上げる。崖には、ゴキブリみたいに、巨漢の男がぶら下がっている。どうやら降りられなかったらしい。
「あら、あなたの旦那様は崖もろくに降りられないヘタレでしたのね。」
月英は、孔明の手を振り切り、女に向かって悪態をつく。
「おやめなさい、月英…」
孔明の制止も聞かず、月英は蒼月を振り上げた。
「あら、蜀の軍師様、ご機嫌麗しくて…」
蒼月が、後ろから聞こえる声音に反応して止まる。
「随分とまぁ、ちんけな争いですわね。埃臭くて嫌になっちゃうわ、ねぇ、我が君。」
月英は、震えを押さえながら、ゆっくり振り返った。憎むべき魏の曹夫妻が孔明の後ろに立っていた。
「甄よ、これらを討てば、玉璽は我らのものになるのだな?」
甄姫の後ろで、笑いながら、魏の若君・曹丕は問いかけている。明らかに、馬鹿にしている…憎たらしい。
「おのれ…孔明様をこれとは…ふん、こんなところに君主がノコノコ出てくるなんて、魏の命運は尽きたも同じですわね。」
「ムキィ、憎たらしい。農民上がりの土臭い田舎娘に玉璽なんかあげられなくてよ!!真に善き夫婦というのは私たちみたいなことをいうのよ。」
「ふん、バツイチのくせに粋がってるんじゃないわよ!!」
醜い女の口げんかが始まった。それぞれ後ろに控えていた旦那‘sは、あんぐりと口を開けて状況を眺めていた。
そのとき、『ドサ』という音がして、両者は振り返った。
忘れ去られた呂布とその妾・貂蝉がそこに立っていた。呂布は結局落ちてきたらしい。頭に瘤(こぶ)が出来ている。
「あーあ、月英がこんなのに構ってるから、呂布が降りてきてしまいました…ここはここにいる曹家の御嫡子にお任せして、早く逃げましょう…」
孔明が月英の手を取り、逃げる体勢をとった。ところが月英は、孔明の手を振りほどき、
「鬼神?いつの時代の人か知りませんが、邪魔する奴らには容赦しませんわ。…ふふふ、こんなこともあろうかと、バッチリ策は練ってきました。」
「げげげげ月英…?」
月英の周りに再び赤黒いオーラが取り巻いている。
「巨大孔明戦車!!カモン!!」
『ゴゴゴゴオオオオオォォォ』
ものすごい地響きがして、崖は崩れ、その向こうからかぼちゃのような帽子をかぶせた木造のロボットが姿を現した。
「巨大孔明戦車は、従来の虎戦車とは違い、羽扇から孔明様のようなビーーーームを出す優れものです。もちろん形は孔明様になぞらえて、孔明様スタイルになっています。そして、そのビーーーーームは、360°放出し、蜀の五虎将が一気に攻め込んできてもまったく歯が立たないというくらい高い攻撃力を持ち合わせています。まさにこれこそ、歴史に残る戦争兵器ですわ!!」
そういえば、今朝の訓練に五虎将が誰一人参加していなかった気がする。
「孔明様、こちらにいらしてください。では行きますよ!!えーい、ぽちっとなっっ!!」
『シャァァァァァァァァァァァァァァ!!』
白いビームが、巨大孔明戦車から放出される。
『チュドーーーン』
『ドンドンドン、ガラガラ』
「「「「ウワァァァァァァ」」」」
岩は崩れ落ち、砦は全開、地面はえぐられ、木々は倒壊していく。
「うをぉぉ、俺は呂布だ!!こんなくそ兵器などにはくっ…」
『ぷち』
「奉先様?」
巨大孔明戦車は鬼神・呂布を踏み潰して前進していく。
集まった人たちは、巨大孔明戦車になす術も無く、方々に散っていった。
「止めなさい!!月英!!」
巨大孔明戦車の足にしがみついていた孔明は、嬉々として戦車を動かしている月英に向かって叫んだ。
「こんなことして、何になるというのです。私は良い夫婦の証など要りません!!いや、もうすでに、私たちは良い夫婦である証を持っているではないですか。月英、あなたが私を誇ってくれていること、愛してくれていることがすでにその証ではないのですか?」
月英は、戦車を止め、孔明を見下ろした。
「…孔明様…」
月英は、巨大孔明戦車から降り、孔明の前に三つ指を付け、額を地面につけた。
「…私が、間違っていました…どうか、どうかその罰を孔明様の手で…」
「いいのです、月英。さぁ、帰りましょう。」
孔明は、月英の腕を支え、起こすと、巨大孔明戦車によじ登り、蜀に帰っていった。
「俺は呂布、字は…」
『スポコーン』
「痛い!!何をするのだ貂蝉!!」
呂布の頭を貂蝉は何度も玉錘で叩いた。
「遅いですわ、奉先様!!罰として、私のためにファミマの弁当早くかってこいやぁ!!」
「何?何故だ…は、あの変な兵器は?」
事の起こりについていけないにぶちんな呂布であった。
「ふん、くだらぬ戦いだったな。」
曹丕は、玉璽を片手に吐き捨てるように言った。
「…そうでもないですわ…」
甄姫は曹丕の腕に、自分の腕を絡ませて、言った。
「諸葛亮の言うように、こんなもので良い夫婦は計れませんわ…」
「ククク、今回は諸葛亮にしてやられたか…」
「悔しいですけど…」
曹夫婦は白馬に跨り、魏へと帰っていった。
愛は女を強くする。
また、
愛ゆえに、女は周りが見えなくなることもあるだろう。
それを止め、制すことが夫となる男の役目とするならば、
二人の絆はより深く、強いものとなるだろう。
愛など形に出来ぬもの。
どの夫婦にも善き夫婦の形があると知って欲しい。
謎の仙人は今日もどこかで多くの夫婦を見つめている…
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