元祖は誰だ!?

モクジ
234年、蜀が魏に対し、北伐を開始して5年ばかり経っていた。もともとそんなに国力のある国ではない上に、劉備の死もあいまって、国自体が疲弊しつつあった。
 この隙を見逃すほど、第三国は甘くなかった。
 呉の皇帝・孫権は、大軍を率いて、蜀君主・劉禅の根城である白帝城を包囲した。

 「夷陵で根こそぎ叩いておけば、今、ここまで苦労することはなかったのですが…」
呉の若軍師、陸遜伯言は戦況を見据えて、孫権にこぼす。
「仕方あるまい。あの頃はまだ劉備(妹をたぶらかしたくそ野郎め…)玄徳が健在だった上に、諸葛亮作のあの忌まわしい迷路が行く手を阻んでまんまと取り逃してしまった。」
「八陣です、殿。しかし、今回、蜀の目線は魏に向いている。幸いにここには今、諸葛亮孔明はいません。またと無いチャンスですよ…ふふふ…」
陸遜から黒いオーラが放たれている。
夷陵で八陣をクリアできなかったことを相当根に持っているようだ。
「う…うむ、では、進軍しようか。」
孫権は右手を掲げ、
「全軍、進めぇ〜!!フォー!!」
『フォォ〜!!』
決して某お笑い芸人の真似をしているわけではない。
むしろ時代はこちらの方が古いのだから、真似しているのは向こうだろう。
ともかく、呉の出陣の号令が響き渡る。

 「殿はこちらの方で待機していてください。我々で敵を惹きつけます。よし、黄蓋軍は中央の街道に集まる敵軍を討ってください。周泰軍は東より援軍の侵入路を確保し、そのまま東方の包囲をお願いします。私は北から包囲を開始します。」
戦闘の火蓋がきって落とされた。
 陸遜は拠点を落とし、老将・黄忠を敗走に追い込むと、その勢いで、北方の入り口を塞ぐ忌々しい八陣地帯まで突っ込んでいた。
石兵八陣は、邪悪なものを招き入れているかのように大口開けて、居を構えていた。
「…さすがは諸葛亮先生…自分の不在時の戦闘を考えて備えを怠らない…しかし、同じ術中に二度も嵌るほど、私とて愚かではない!!行きます。全軍、進めー!!」
「フォー!!」
聞きなれた声に、陸遜は掲げた手をそのままに、一軍を見やった。
「と、と、と、と、殿!?待機していて下さいと言ったではないですか?」
一軍の兵に紛れて、総大将・孫権が身を隠していた。
「だって、待機ってつまんないんだもーん。」
だもーんって…
「はぁ…」
陸遜は深いため息をこぼした。
「全軍、殿をお守りしながら進みなさい。では、気を取り直して、行きます!!」
『フォォー』

 八陣に敵の侵入が確認された。
蜀の軍師見習いで諸葛亮の愛弟子・姜維は八陣の出口にて、敵を迎え撃つ準備をしていた。
「思ったより戦局は難航しているみたいですね。しかし、ここから先はこの姜伯約がハエ一匹たりとも通しはしない!!」
と断言している側から、足元の蟻は列をなして、姜維をすり抜けていった。

 八陣のクリアは思いのほか難航していた。もっとも先頭が方向音痴で一部に有名な陸遜なのだから仕方がないっちゃ仕方がないのだけれど。
「くっ…夷陵に構えられたあの石兵八陣よりも簡素で、構図的には易しいはずなのに…くそ、いっそのことこの火矢で燃やしてしまえ…」
「軍師殿!!それだけはおやめください!!」
「われわれが酸欠で死んでしまいます!!」
脳内の有酸素が欠乏しかけておかしくなっている陸遜を尻目に、孫権は、後ろの一兵卒を数人引っ掛けて、別回路を進行していた。
「ふぉ〜?」
「ふぉふぉ。」
「フォー!!」
『ガシャン』
解説しよう。
「おい、これはなんだ?」
孫権は奇妙な兵士の石像を指差して問う。
「さぁ、分かりません。」
一兵卒にそのような教養はないと言わんばかりに首を横に振る。
「壊してみよう。フォォー!!」
孫権は剣を、石像に向かって振り下ろした。
『ガシャン』
『ゴゴゴゴゴゴ…』
石像が壊れた瞬間、地鳴りが響き、地面が小さく震え始めた。
「殿、壁が…壁が開きました!!」
「でかした!!よし、進むんだ!!フォー!!」
孫権と一部の兵は、新たに開かれた道を抜けて、八陣を見事に通り抜けた。

 八陣から地鳴りがしている。誰かが仕掛けを破ったのだ。
「よし、全軍、戦闘用意!!」
連弩隊が守備位置につき、姜維はその後ろに回った。
その時、八陣の出口から人影が現れた。
「よし、第一陣、テェー!!」
連弩が発射される。しかし、惜しくも避けられてしまった。
「くっ…」
「小賢しい!!そこの若造、こんなんで私を倒せると思ったら大間違いだ!!」
威勢よく、突っ込んでくる男を見て、姜維は息を呑んだ。
「あ…あれは、呉の大将・孫権!!何故こんな所に…てか単身で君主が乗り込むなど、こいつは馬鹿か?」
「ホー!!」
『キィィーン』
姜維の三尖槍の刃と、孫権の刃が交じり音を上げる。
「く…フオー!!」
「!!」
姜維の鍔弾きで、孫権は一度姜維から離れた。
「お前…その掛け声は…」
「これは私の気合の掛け声です。」
孫権は奥歯を強く噛んだ。
「何を言うか!!その掛け声は元は私のものだ。著作権の侵害だ!!即刻改めよ!!」
剣先を姜維に向け、孫権は喚き立てた。
しかし、掛け声に著作権もへったくれもない。
「あなたこそ何を言うんですか。この掛け声は私が編み出したもの。真似したのはそちらでしょう?元祖は私です。」
だが、姜維とて負けず嫌いな一本気。ちゃっかり応戦している。
「なにを〜?元祖にふさわしいのは、地位も名誉もひっくるめて、この私だ!!フォー!!」
「掛け声に地位も名誉も関係ありません。世の中は顔なんですよ。フォオオオオオ!!」
『ガキィィィン』
再び刃が交じり合う。
姜維も孫権も本来の目的をすっかり忘れている様子だ。
 
 ちょうどそのころ、陸遜はようやく孫権の開けた隠し通路を見つけ、進軍していた。
「ちぃ、遅れを取ってしまった…殿が先におられるはず。無事で居ることを祈るばかりだ。」
遅れた理由が、自分の方向音痴だということを彼は未だに気付いていない。
 陸遜が八陣を抜けたとき、目の前では、わが君主・孫権と諸葛亮の愛弟子で麒麟児と謳われるほどの有能な若軍師・姜維が刃を交えていた。
「あぁ、殿!くそ、姜維め、諸葛亮先生に愛されながらもその童顔なマスクで我が殿まで誑かすか!私は認めない!!真の“萌え”の座はこの陸伯言が頂きます!あぁ何言っているんだ…本音がつい…はっ、殿、今ご助力いたします!!よし、火矢の準備を!!」
陸遜軍の火矢が一斉に、孫権と姜維に向けられた。
「ん?」
「!!」
二人とも、気付いたときにはすでに遅し。
『ドーン』という異常に馬鹿でかい爆発音とともに、孫権と姜維は大ダメージを負った。
君主がこんなになってしまっては、戦どころではない。
呉軍は慌てて撤退を始め、白帝城の戦いは幕を閉じた。
撤退途中の進路で、孫権はしきりに
「元祖はわたしだぁ〜」
と呻いていたという。

モクジ

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