戦国無双
ファミマへ行こう!
俺はなぜ自分がここにいるのか分かっていない。ただ、彼女がファミマのお弁当とやらが食べたいと言ったから、わざわざ海と時代を渡って3世紀の中国からこんなわけ分からない「倭」と言う国に来てやったと言うのに、言葉は通じないし、わけわからないところに閉じ込められるし、この国に来てからは踏んだり蹴ったりだ。
*
「誰かおられるか?」
入り口が久々に開いた。逆光で顔が良く見えないが男のようだ。赤い装束をまとっている。いや、あれはこの国の鎧か?自分が赤兎とともに戦場をかけていた頃に比べて随分重そうな装備だ。
「・・・何者だ?」
俺は久々に自分に向けられた殺気というものを感じた。こいつは強い・・・こんな感覚は久しぶりだ。もう二度と味わえないと思っていた。まさかこんなところで・・・俺の心は破裂しんばかりに興奮している。
「お前がこの無限城の奈落に住まう化け物か!!」
鎧の男が声を張り上げた。とても張りがあり、自信に満ち溢れた声色だ。
「我が名は上田の真田幸村、無限城の奈落に住まう化け物を倒すために参上した!!手合わせを願おう!!」
鎧の男は手にしていた十文字槍を頭上で一回転させ刃を俺に向けてきた。なんて度胸のある男だ、こうでなければ面白くない。方天戟を握る手に汗がにじむ。
「俺の名は呂布、字は奉先。雑魚はここで死ねぇぇぇ!!」
俺は迷わず真田の懐に向かって方天戟を振り下ろす。
「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい」
〈ガキィィィィン〉
「な・・・なに?」
この男、俺の一撃を止めた?ふん、そこそこやるようだ。
「貴様の腕はそんなものか?」
ピキィィィン。俺は呂布だ。名を聞けば子供は泣き止み、俺が戟を振り上げて立ちはだかろうものならば、雑魚は腰を抜かして逃げ帰る。そんな俺が、こんな赤い堅物鎧の雑魚に馬鹿にされた・・・
「ぬぉぉぉぉ、きすぁまぁぁ、生きてここから出られると思うなよ!!」
俺、怒りマックス。俺は方天戟を頭上で振り回しながらこの糞餓鬼に近づいていった。
「奉先様!!」
聞き覚えのある声に俺は手を止めた。
「あ・・・・あ・・・ち・・・ちょ・・・う・・・・せん?」
俺は思わず振り上げていた方天戟を地に落とした。
「なぜ、どうして貂蝉がこんなところに・・・」
貂蝉は、俺から奪い取った赤兎馬に跨り、8人の護衛兵を引き連れ、俺と真田の間に割って入った。
「なぜ・・・ですって?奉先様、あたくしはファミマのお弁当を頼んだはずです。こんなところでなにをしているのですか?」
「こ・・・これには・・・深い深い訳があってだな、いや、ファミマとやらを探したのだ。探したのだが、そんなものはないと言われ、挙句に捕らえられこのようなところに押し込められたのだ。・・・・そうだ、こいつだ!!」
俺は咄嗟に、側にいた赤い鎧の鉢巻男を指さし、叫んだ。
「わ・・・わたし!?」
真田幸村は十字槍を落とし、ぽかんと口を開け、情けない声をあげた。
「そう、この男が俺をここの閉じ込めたのだ。こいつのせいで俺は約束を果たせなかったのだ。今からこやつを打ちのめしここを出ようしていたところだ。な?あ、なら共に戦おうではな・・・」
バシコォーン
「ぬおぉぉぉぉぉぉ!!」
俺はこの瞬間、軽やかに宙を舞った。そしてその時まさに仏を見た。なぜか劉備に似ていたような気がした。どさっと言う音と共に俺の背中が地に落ち、衝撃が走った。
「かはっ・・・・貂蝉・・・何故だ・・・何故・・・」
女は赤兎を横たわる俺の脇に着け、見下すように睨み付けた。
「今更そんな嘘っぱち、誰が信じると言うのです?あなたは、あたくしとの約束より、戦のほうが大切なのです。そうでなかったら、こんなへぼ城、あたくしの見こんだあなたなら簡単に壊せたはずです!!」
「へ・・・へぼ・・・」
真田幸村が口の端をヒクヒクさせ、双方を見比べた。
「そ・・・それより貂蝉、その赤兎・・・」
「これは、あたくしの赤兎ですわ。」
いや、これはどっからどう見ても俺の愛馬だ。てか、この馬に乗って海を渡ってきたのか?
「それに、あたくしのものはあたくしのもの。あなたの物はあたくしの物ってきまっているでしょう?」
そのせりふ、何処かで聞いたことがあるような・・・?
「さぁ、わかったら早くファミマを探してきなさい!!」
貂蝉は馬上より玉翠を振り下ろした。先端が俺の頬に食い込む。
「ま・・・待て!!」
狭くなった視界から入り口に真田幸村が立ちはだかっている姿が飛び込んできた。
「貴様、まだいたのか?」
俺はボソッと呟いた。まったくこの期に及んでなんて命知らずな・・・じゃなかった。神経の図太い奴だ。などと思っているうちに、幸村は十字槍を振り上げ、頭上で2〜3回振り回すと、こちらに刃を向け構えた。
「私にあらぬ罪をかぶせた上に、城を貶し、挙句に存在まで無視されていて黙って帰すわけにはいかない。あなた方にどんな事情があるか知らぬが、もう一度手合わせを願いたい!!」
「ふん、弱い雑魚ほど良く吠えるというが・・・」
俺は貂蝉の玉翠を退けると、方天戟を拾い上げ、刃を鎧鉢巻男に向けた。
「俺に刃を向けたこと、後悔するなよ!!」
勢い良く戟を振り上げ、幸村めがけて駆け出した時であった。
つんっ。ビッタァァァァン。
俺は何かにつまずいて顔面からもろに地面に転落した。
「阿呆男どもめが!!」
貂蝉がどすの効いた声で再び真田と俺の間に立つ。彼女は俺に足掛けをしたのと同時に、どうやら玉翠の片方を真田幸村に目掛け投げつけたらしく、真田のあごにはみごとに煌びやかな装飾の着いた武器が刺さっていた。
「健気にお弁当が食べたいと言っている美女を目の前にして、まだ争おうというのですか?このばかちんめ!!」
彼女はいったい何処でそんな言葉を覚えてくるのだ?
「そこの赤いあなた、奉先様は、あたくしの下僕ですのよ!!気安く触らないで頂けます?」
かばってくれるのはうれしいが、かばう理由が少し悲しい。
「彼は空腹で死にそうなあたくしのためにお弁当を買ってきてくださるとても心の優しい方なのです。あなたは、あたくしにお弁当、買ってきてくれますの?」
貂蝉は真田に近づき、倒れこんでいる奴のあごを掴み、色香でお弁当を要求している。要約すれば、『あたしは腹が減ってんだから無駄な時間取らせた分、てめぇも一緒にファミマの弁当買って来い』といっているのだ。それを察してかは知らないが、真田はぽかんと口を開け、涙目になりながら震える顔を必死に縦に振っていた。
「あらぁぁ、赤いあなたもあたくしにお弁当を買ってきてくださるの?うれしいわぁ。奉先様にはファミマでお願いしたけど、あたくし実はローソンとやらのお弁当も食べたくて、そこのをお願いしても良いかしら?」
「「ろーそん?」」
聴きなれない単語に俺も真田も声をダブらせる。
「ええ、ローソン。」
その言葉を聞き、俺の背筋が凍った。恐らく横にいる赤い鎧の男も同じ感じを味わったに違いない。やんわり微笑む貂蝉のバックに、「これくらいしってんだろ?あぁん?」という台詞を見た気がしたのだ。
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