戦国無双
難波の夢の如く
三成、頑張ってね。」
おねね様は、笑顔でそういった。
笑顔?
笑顔だったのかよく分からない。
夕日差す天守閣。
豊臣秀吉の正妻・ねねはいつものように、戦場へ赴く石田三成に向けていった。
「三成、頑張ってね。」
逆光でその表情はわからない。
でも、いつも笑顔だったから…
おねね様は、いつも…
1598年、織田信長の志を引き継いで日の本を天下統一に導いた豊臣秀吉が息を引き取った。
後継は、子・秀頼が継いだ。
しかし、秀頼は側室・淀殿との子。
それもまだ幼く、とても天下を束ねるほどの力はない。
そんな折、東を固めていた徳川家康が天下に覇を唱え、挙兵した。
今まで、秀吉が束ねてきた諸国の大名が一気に反旗を翻してきた。
それはかつて寝食を共にしてきた同志・福島正則も例外ではなかった。
正則の反旗。
それはつまり、『北の方』の反旗でもあった。
「ねね様、なぜ徳川の味方をするのです?」
三成はねねの元を訪ねた。
「あたしは秀吉の妻だけど、秀頼の母ではないんだよ。」
「しかし、秀頼様は殿の後継です。豊臣はまだ終わっていません。それに、徳川の行動は義に反する。これは討たねばなりません。」
「三成、三成が説く義って何?」
「義は…義です。『みなが笑って暮らせる世を創る』という秀吉様の想いです。」
「…みなが笑って暮らせる…うちの人…秀吉はいつもそう言っていたわね。秀吉が天下を統一して、『みなが笑って暮らせる世』になったって、三成は思う?」
「…ええ。以前の戦国乱世と呼ばれていた数年前よりかはましになったかと思います。」
「…損な子だね。」
「?」
「じゃあ、三成はたぬき……もとい、家康と戦うんだね。」
「それは…」
躊躇いはないはずだった。
しかし、なぜかすぐに言葉が出てこなかった。
「不義を誅するんでしょ?」
『不義』
その言葉で、三成は我に返った。
「…ええ。」
「そっか。」
ねねはゆっくり口を開け、いつもの言葉を呟いた。
「三成、頑張ってね。」
三成は立ち上がり、ねねに背を向けた。
「…そんなことは分かっています。」
「ふふ…変わらない子だね。」
ふすまに手を掛け、音も無く開ける。
「…でも、秀吉を護ってくれてありがとう。」
ねねの声は擦れていた。
三成は黙って天守閣を後にした。
1600年
関ヶ原。
三成率いる西軍は、家康率いる東軍に惨敗した。
「おねね様」
「正則…生きてたの。」
「それはひどい。」
互いに沈黙が走る。
「…み…」
正則の言葉を切ってねねが口を開いた。
「三成は、捕らえられた先で柿を勧められて、「体に障る」っていって断ったそうよ。」
正則が、顔を背けたのが影で分かった。
にわかに肩を震わせていることも。
「…ほんと、生きにくい子…だね…」
おしまい
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